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第12話「僕は美味しい朝食を」

【12月28日日曜日09:00】 「オーナーが言っておりました。手紙を読み終えた貴方は、かなり混乱するだろうと」 僕が手紙を読む前に席を外した秘書の長谷川さんは、朝食が乗ったワゴンを押して、戻ってくる。 時計を見ると、思ったより時間が経過していた。 手紙を握りしめたまま、この椅子に座り続けていたようだ。 長谷川さんは、窓際にテーブルを移動させ、真っ白なクロスをかけてくれた。 — シンプルなオムレツには、ソテーしたポテトと、カリカリに焼かれたベーコンが添えられている。 スモークサーモンとアボカドがたっぷりのったサラダは、ドレッシングが選べるようだ。 さらに、野菜たっぷりのミネストローネに、バジルを練り込んだベーグル。 林檎ジュースと、真っ赤な苺。 全体的にシンプルながら、間違いない品ばかり。 ……ものすごく美味しそうなのに、僕は手紙の衝撃からまだ抜け出せない。 「こちらは、オーナーが好んでいるメニューです。貴方は乳製品がお嫌いと伺いましたので、ヨーグルトはご用意しておりません」 僕は、反射的に顔を上げる。 「誰が、誰が、僕がヨーグルトは嫌いだと?」 「オーナーに伺いましたが、違いましたか?」 「いや、嫌いなんです。乳製品全般が……」 「そうですか。ではどうぞ、ごゆっくりお召し上がりになって、先ほどの答えを熟考ください」 「あ、あの、質問は受け付けてくれますか?」 「私が答えられる範囲であれば、なんなりと。でもまずは、温かいうちにお召し上がりください。お食事が終わる頃、また参ります」 一礼して彼は部屋を出ていく。 — 僕はとにかく食事を取り、頭を働かせようと、バジル香るベーグルを手に取って口へ運んだ。 「うまっ」 美味しいものがお腹に収まっていくと、手紙についてもちゃんと思考できるようになってくる。 まず。 昨日の夜ホテルに現れたのは、9月のあの人だった。 彼は、僕と肌を合わせる行為を特別だと感じ、僕を探してくれていた。 これは、とても嬉しいこと。 次に。 なんとその紳士が、僕の憧れ、フェイジョアホテルのオーナーだった。 オーナーは鳥籠のメンバー。 自分のホテルを使わず、クラシックなホテルで時々、文鳥を抱いていた。 驚いたけど、オーナーと接点が持てることは光栄以外の何物でもない。 問題はその次だ。 あの手紙で、文鳥の名前を知らないはずのカラスが、僕を「キヨ」と呼んだ。 さらに、岩山を認識していた。 そして極めつけは、僕が乳製品を嫌いだと知っていた……。 — 「ご質問を、お伺いいたします」 長谷川さんが、食後の紅茶をサーブしながら訊いてくれる。 「では、キリがないので3つだけ。1つ目。岩山は、オーナーに手荒なことをしたりしませんでしたか?」 「威圧的ではありましたが、存外、紳士でいらっしゃいました」 「よかった。その2、オーナーはずっと小山内という苗字なのですか?」 「オーナーが、小山内の姓になったのは10年ほど前だと聞いています。その前は母方の姓を名乗っていらしたと」 「10年。……なるほど」 僕は頷く。 「3つ目。5億円っていうのは、何かの比喩か冗談ですか?」 長谷川さんは、鼻で笑う。 「だとしたら、私の心労も少なくてすんだのですが」 僕も曖昧な笑顔を浮かべ「ハハハ」と笑ってしまった。 「さて。それでは答えをお聞かせいただけますか?」 「……「はい」でお願いします」 「畏まりました」 長谷川さんは恭しく頭を下げたあと、僕に新幹線の切符を渡してくれた。

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