14 / 55
第12話「僕は美味しい朝食を」
【12月28日日曜日09:00】
「オーナーが言っておりました。手紙を読み終えた貴方は、かなり混乱するだろうと」
僕が手紙を読む前に席を外した秘書の長谷川さんは、朝食が乗ったワゴンを押して、戻ってくる。
時計を見ると、思ったより時間が経過していた。
手紙を握りしめたまま、この椅子に座り続けていたようだ。
長谷川さんは、窓際にテーブルを移動させ、真っ白なクロスをかけてくれた。
—
シンプルなオムレツには、ソテーしたポテトと、カリカリに焼かれたベーコンが添えられている。
スモークサーモンとアボカドがたっぷりのったサラダは、ドレッシングが選べるようだ。
さらに、野菜たっぷりのミネストローネに、バジルを練り込んだベーグル。
林檎ジュースと、真っ赤な苺。
全体的にシンプルながら、間違いない品ばかり。
……ものすごく美味しそうなのに、僕は手紙の衝撃からまだ抜け出せない。
「こちらは、オーナーが好んでいるメニューです。貴方は乳製品がお嫌いと伺いましたので、ヨーグルトはご用意しておりません」
僕は、反射的に顔を上げる。
「誰が、誰が、僕がヨーグルトは嫌いだと?」
「オーナーに伺いましたが、違いましたか?」
「いや、嫌いなんです。乳製品全般が……」
「そうですか。ではどうぞ、ごゆっくりお召し上がりになって、先ほどの答えを熟考ください」
「あ、あの、質問は受け付けてくれますか?」
「私が答えられる範囲であれば、なんなりと。でもまずは、温かいうちにお召し上がりください。お食事が終わる頃、また参ります」
一礼して彼は部屋を出ていく。
—
僕はとにかく食事を取り、頭を働かせようと、バジル香るベーグルを手に取って口へ運んだ。
「うまっ」
美味しいものがお腹に収まっていくと、手紙についてもちゃんと思考できるようになってくる。
まず。
昨日の夜ホテルに現れたのは、9月のあの人だった。
彼は、僕と肌を合わせる行為を特別だと感じ、僕を探してくれていた。
これは、とても嬉しいこと。
次に。
なんとその紳士が、僕の憧れ、フェイジョアホテルのオーナーだった。
オーナーは鳥籠のメンバー。
自分のホテルを使わず、クラシックなホテルで時々、文鳥を抱いていた。
驚いたけど、オーナーと接点が持てることは光栄以外の何物でもない。
問題はその次だ。
あの手紙で、文鳥の名前を知らないはずのカラスが、僕を「キヨ」と呼んだ。
さらに、岩山を認識していた。
そして極めつけは、僕が乳製品を嫌いだと知っていた……。
—
「ご質問を、お伺いいたします」
長谷川さんが、食後の紅茶をサーブしながら訊いてくれる。
「では、キリがないので3つだけ。1つ目。岩山は、オーナーに手荒なことをしたりしませんでしたか?」
「威圧的ではありましたが、存外、紳士でいらっしゃいました」
「よかった。その2、オーナーはずっと小山内という苗字なのですか?」
「オーナーが、小山内の姓になったのは10年ほど前だと聞いています。その前は母方の姓を名乗っていらしたと」
「10年。……なるほど」
僕は頷く。
「3つ目。5億円っていうのは、何かの比喩か冗談ですか?」
長谷川さんは、鼻で笑う。
「だとしたら、私の心労も少なくてすんだのですが」
僕も曖昧な笑顔を浮かべ「ハハハ」と笑ってしまった。
「さて。それでは答えをお聞かせいただけますか?」
「……「はい」でお願いします」
「畏まりました」
長谷川さんは恭しく頭を下げたあと、僕に新幹線の切符を渡してくれた。
ともだちにシェアしよう!

