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第13話「僕はコクリと頷く」
【12月28日日曜日12:30】
手の中にあるのは、12:04東京駅発の北陸新幹線「あさま号」のグリーン車指定席券。
僕は、わけも分からずホームにいる。
まさに帰省ラッシュの真っ只中なのだろう。
東京駅はとても混雑していた。
そもそも、僕は手ぶらだ。
ダウンジャケットのポケットに、スマホと財布と、マンションの鍵などの鍵束が入っている。
それから、今朝受け取った手紙も持っていた。
こんな身軽さで、僕はどこへ向かおうとしているのだろう。
僕に切符を渡したとき、長谷川さんは言った。
「軽井沢駅で、しなの鉄道に乗り換え、一駅先の中軽井沢駅まで行ってください。そちらのロータリーで、別荘の管理人が待っております」
「何があるんですか?軽井沢に」
「貴方のために建てた別荘があるそうです。私も今朝方まで、その存在すら知りませんでした」
僕のため?意味が分からない。
長谷川さんも、同じ気持ちらしく、眉間にシワが寄っていた。
……結局僕は、肝心な質問を彼にしないままだ。
はっきり聞くのが怖かったから。
「オーナーは以前、学校の先生をしていましたか?」
そう聞けば、全ての意味が分かっただろうに、勇気が出なかった。
—
新幹線の中は、大きな荷物を持った人ばかりだった。
僕も、手土産ぐらい買うべきだっただろうか。
いや、誰に渡すために?
それが曖昧なのだから、どうしようもない。
東京駅を出発したとき、指定された窓側に座った僕の隣は、空席だった。
5分後には次の上野駅に到着し、その席に、ハットをかぶった年配の男性が乗ってくる。
ハットを脱いで会釈し座ったその人に、軽く会釈を返し、僕は外の流れる景色を見ていた。
上野駅を出発して10分ほど経った頃、その男性が突然話しかけてきた。
「文鳥は愛を知ったら、鳥籠を卒業しなければなりません」
その声に反応し、勢いよく男性のほうを向く。
とても聞き覚えのある声だったから。
「ただ、その愛が本物なのか、鳥籠としては見極めなければならないのです。何しろカラス皆が愛おしく思っている文鳥ですから。おかしな人物のところへは、やれません」
「フクロウさん?」
「よって、卒業を文鳥を卒業させたいカラスには、試験を受けていただく必要がございます」
「どうしてここに?」
「カラス様の意志は既に確認いたしました。こうして私が直接お会いし、文鳥の気持ちを確認したところで、スタートとなります」
「今から行く別荘で、カラスはその試験を受けるってこと?」
「本来、試験をするための場所は、鳥籠が用意しております。しかし、カラス様がどうしても文鳥を招きたい館があるというので、そちらを使用することになりました」
「ねぇ、試験ってどんな内容なの?」
「それはまだ申し上げられません。試験の前に、まずは課題をこなしていただきます」
「課題?」
「明朝より、メッセージアプリにて、1日1つ、5日間に渡り課題内容をお送りいたしますので、二人で協力し取り組んでください。そして6日目に試験となります」
『まもなく大宮です。大宮の次は熊谷に止まります』
大宮には、上野から20分もしないで到着するようだ。
「私はもう下車いたします。キヨチカ様、小山内様に愛されることができますか?たった6日間で」
僕は躊躇わずにコクリと頷いた。
新幹線は徐行を始め、フクロウさんは席を立つ。
「では、明日より課題に取り組んでください。どうか、ご無事に卒業されますことを、お祈りしております」
彼は深々と頭を下げ、ハットをかぶり下車していった。
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