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第14話「僕はようやく再会する」
【12月28日日曜日23:00】
……目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
ここは、幹線道路沿いにある自宅マンションとは違い、シンと静まりかえっている。
ただ、「ワン、ワンワン!」と犬が吠えていた。
—
今日の昼間。
長谷川さんが言っていたように、中軽井沢の駅には管理人と名乗る男が、車で僕を迎えに来ていた。
管理人の彼は僕より5歳も若いらしく、動きやすそうなカジュアルな服装をしている。
車の助手席には、白くて毛足が長い、大きな犬が乗っていた。
「自分のことは、ソラと呼んでください。オーナーもそう呼んでくれます。それからこの犬は、グレート・ピレニーズのハルです」
ソラは駅から車で10分程の距離にある別荘へ、僕を連れて行ってくれた。
別荘というより、プチホテルといった雰囲気の二階建ての建物だ。
「さっきまで、電気系統の修理が入っていたんですけど、いらっしゃるまでに終わってよかった」
廊下を進んで、大きな窓の向こうが森になっている部屋へ、案内される。
森の地面には少し雪が残っていて、見るからに寒そうだが、室内は充分に温められていた。
「オーナーは夜遅くに車でくるそうです。それまでは館の中は出歩かないように、とのことです。オーナー自らが案内したいのでしょう。なにしろ初めてのお客様ですからね」
ソラはオーナーを慕っているのだろう。
口調からもそれが分かる。
「急なお越しだったので、掃除は終わったけど、食事の支度は間に合いませんでした。夕食は、近くのビストロからのテイクアウトになってしまいます」
「あ、えーと。お気遣いなく」
「着替えは、部屋着になりそうなものを購入しておきました。自分とハルは、離れ屋にいますから、何かあったら電話で知らせてください」
大きな風呂に入り、夕食をご馳走になり……。
ソファで横になっているうちに、部屋の照明をつけたまま、僕は寝てしまったようだ。
—
犬の鳴き声に続き、車が砂利道に侵入してくる音が聞こえる。
車の扉がバタンと閉まる音。
犬が嬉しそうに鳴く声。
玄関が開く音、閉まる音。
廊下を誰かが駆けてくる音。
そして、僕のいる部屋のドアが勢いよく開いた。
「キヨ!」
冷たい外の空気を纏ったその人は、僕を強く強く抱きしめる。
ウッディな深い森の匂いがする男が誰なのか、もう疑う余地はどこにも残っていない。
触れ合っただけで、身体が熱くなるのは、彼が特別である証拠。
それでも恐々と彼のことを呼ぶ。
「先生?」
「そうだよ、キヨ……」
それ以上の会話など、なかった。
先生の背中に手を回し、彼の肩に顔を埋める。
あぁ、また会えたのだ。
10年ぶりに、こうして再会できた。
先生は僕のほっぺを冷たい両手で包み、しっかりと目を合わせ、微笑んでくれる。
「先生……」
催促するようにそう呼べば、ゆっくりと唇を重ねてくれた。
一度重なった唇は、離れていく気配がない。
何度も、何度も、角度を変えて、望んでいた甘く深いキスを僕にくれる。
そして、僕はベッドに押し倒された。
僕に覆いかぶさってきた先生の、チャコールグレーのスーツは少し着崩れている。
昨日から今日に至るまで、先生も怒涛の時間を過ごしたのだろう。
「ねっ、先生、抱いてよ」
声が上ずってしまう。
もっともっと、先生を感じたくて、堪らない。
先生は、ジャケットを脱ぎ捨てる。
そしてベストのボタンを一つ一つ外す。
待てない僕は、彼のネクタイをシュルルと抜き取った。
「キヨも、脱いで……」
先生の声だって、甘く擦れている。
僕らはようやくお互いを認識し合い、肌を重ねることができたのだ。
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