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第15話「僕はキスを数える」
【12月29日月曜日08:50】
「キヨ、おはよう」
その声にゆっくり目を開ければ、部屋の中はもう明るく、時計の針は08:50を指していた。
「おはよう、先生」
僕らは二人ともまだ裸で、床には脱ぎ散らかした服が散らばったままだ。
「久しぶりに、よく眠りました」
先生が上半身を起こし、大きく伸びをする。
僕は夜中に何度か目を覚ました。
でも、自分が先生の腕の中にいることを確認しては満ち足りた気持ちになって、また眠った。
「先生、僕、お腹空いた」
「キヨ、君は私のことを、これからも先生と呼ぶつもりですか?」
「うーん、じゃあ、オーナー?」
「それもどうかと」
「そしたら、シュウだね。うん、やっぱりシュウがいい」
シュウは、嬉しそうに笑ってくれる。
「シャワーを浴びて、着替えて、ダイニングへ行きましょう。今朝はソラがパンを焼いてくれると言っていましたから」
「ピコン」と機械的な音が、重なって鳴った。
時計を見ると、9時ちょうど。
僕は裸のままシーツを纏い、ソファの上のスマホを取りに行く。
シュウも身体に毛布を巻き付け、床に落ちているスーツからスマホを探し出す。
「鳥籠からメッセージだ」
「私にも届いています。同じものでしょう」
僕はそれを読み上げる。
『文鳥のための鳥籠卒業課題その1。只今より24時間、キスは5回のみ許可される。それ以外の性的な接触は禁ずる。また、互いに一つずつ打ち明け話をすること』
これが課題?課題というより指示書ではないか。
「ねぇ、楽勝じゃない?」
「そうかな?」
シュウが僕を背後から抱きしめてきた。
そして「キヨ」と名を呼び、振り向いた僕の唇を奪う。
下唇をハムハムと甘噛みされ、目を合わせながら、僕らは互いに笑った。
「ほらね。これでもう残り4回ですよ。10年ぶりに再会したキヨは、未成年から大人になっていて、ようやく好きなだけキスできるのに……」
そんなことを言われたのが嬉しくて、今度は僕からキスをする。
残りは3回になってしまった。
—
部屋にあるシャワールームを交代で使い、暖炉のあるダイニングへ移動する。
パンのいい香りがしていた。
床で寝そべっていた白い犬のハルが、僕らに気がついて、のそりと起き上がり尻尾を振りながら近づいてくる。
「おはよう、ハル」
軽く撫でてやれば、もっと撫でろと身体をすり寄せてきた。
僕がそんなふうに犬と戯れている間に、テーブルには朝食が用意されてゆく。
ソラが焼いた小さなフランスパンには、レタスと、ボイルしたソーセージが挟んである。
「ケチャップと粒マスタードをお好みでどうぞ」
ソラはそう言いながら、コンソメスープとトマトサラダも並べてくれた。
僕はとても不思議な気分だ。
三日前に仕事をクビになり、寂しい年末年始を過ごすつもりだったのに……。
今、軽井沢のプチホテルのような別荘にいて、焼きたてパンの朝食をご馳走になっている。
そしてなにより隣には、10年ぶりに再会した僕の大好きな先生、シュウが座っているのだから。
「どうしました?キヨ。嫌いな食べ物がありましたか?」
「違うよ。なんだか夢みたいだと思って。ねぇ、僕はいつまでここに居ていいの?大晦日も、お正月も、ここに居ていいの?」
「もちろん。さあ、まずは朝食を食べて。そのあと、今後について話をしましょう」
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