20 / 55
第17話「僕は褒めてもらえる」
【12月29日月曜日15:00】
「今からでも、好きに使っていいですよ」
僕が作業場の機具を触りたそうにしているのが分かったようで、そんなことを言ってもらえる。
「私も、部屋で少し仕事をしますから」
その言葉に甘え、僕は真新しい作業場に入り浸った。
途中ソラが、お昼ご飯だと焼きタラコのおにぎりを運んできてくれる。
片手間にそれを食べながら、端材を削ったり切ったりして、機械や工具を試して過ごした。
—
15時。
温かいゆず茶を持って、シュウがやってくる。
「休憩にしましょう」
「あ、うん」
返事をしたのに手を止めない僕に、シュウが呆れたような、微笑ましいような声で言う。
「こういう作業が好きなんですね、キヨは。でも冷めてしまいますよ、せっかくのゆず茶が」
僕は後ろ髪をひかれながら、身体についた木屑を落とし、シュウの隣に座った。
ゆず茶は程よい甘さで、創作モードだった気持ちをゆっくりと鎮めてくれる。
「秘書の長谷川が、カラテア工房の唐津ツヨシに連絡を入れました」
「え?」
「「大賞を受賞した作品は貴方のデザインで間違いないですね、これは最終確認です」とお伝えしたところ、間違いないとのことでした」
「うわっアイツ、ムカつくわー」
「実際、チームで作成しているところもありますから、本人がそういうのなら、こちらは否定できません」
「もういいよ、あの椅子は。僕はあれ以上のものを作るから。それにコンペに受賞して、フェイジョアホテルオーナーに会うって夢は叶ったしね!」
「キヨ……」
シュウは僕の肩を引き寄せ、抱きしめてくれた。
「本当に立派になりましたね。私は誇らしいです」
誰かに、こんなふうに褒めてもらえるなんて、いつ以来だろう。
いや、初めてかもしれない……。
それに、褒めてくれるのが誰でもよかったわけじゃない。
シュウが、大好きな先生が、欲しい言葉をくれたのだ。
もう少し僕が若かったら、子どもじゃないのにと、格好つけて突っぱねたかもしれない。
でも、そうはしない。
だって今、僕は堪らなく温かな気持ちだから。
「それで、この作業場を使って新しい椅子は作れそうですか?」
「うん!今もアイデアが次から次へと浮かんでるよ」
「では、6日後の1月4日の授賞式で、キヨの何らかの新作が発表できますか?」
「授賞式で?」
「コンペに応募してくる方々は、半年以上かけて一脚仕上げてくることを承知しています。それでも私は、早く皆にキヨを見せびらかしたい」
「なにそれ」
シュウの意外な子どもっぽさを垣間見て、笑ってしまう。
「私は本気ですよ、キヨ」
シュウは真剣な顔をしていた。
僕はその顔にドキリとして、ゆず茶が入ったカップを両手で強く包み込む。
シュウの期待に応えたい。
最良の理解者、最良の作業場、最良の木材を用意してくれたのだから。
なんとか間に合う方法がないか、熟考してみよう。
—
「あのさ、確認しておきたいんだけど、シュウは本当に鳥籠に5億円を支払ったの?なんで?どうして?」
気になっていたことを口にする。
「僕に身体を売らせたくなかったのなら、そう言ってくれればよかったのに。そしたら、僕がフクロウさんに電話をしなくなる。それだけのことだったんだよ」
「5億円は過去との精算です。キヨの、ではなく、私の過去との」
「よくわからないよ」
「では、ここで課題にもある私の打ち明け話をしましょうか」
僕の身体は少しこわばる。
シュウは何を言うだろうか、と。
「ワン、ワンワン!」
ガラス扉の向こうで、ハルが吠えた。
こんなところにいたのか!とでも言いたそうだ。
前足で扉を引っ掻き「あそぼ、あそぼ」とアピールしてくる。
「やっぱり話は夜にしましょう」
そう言って立ち上がったシュウを見て、僕は少しホッとした。
ともだちにシェアしよう!

