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第20話「僕はアイデアを思いつく」
【12月30日火曜日05:00】
まだ随分と暗いうちに目が覚める。
隣では、シュウが穏やかな表情で眠っていた。
彼を起こさないように羽毛布団から抜け出し、ベッドを降りる。
そういえば昨晩は、風呂でのぼせ、随分と甘えたフリをしたことを思い出す……。
温かい衣服に着替え、僕は部屋を抜け出した。
廊下を進み、ガラス扉を開け、シュウが用意してくれた作業場へ向かう。
シュウは、1月4日の授賞式までに新作が作れないか?と言っていた。
昨日の夕食時に、その真意をよくよく聞いてみた。
もちろんコンペの結果を覆すわけにはいかない。
それとは別に、授賞式に来る人、ホテルを利用する全ての人々の目につくエントランスに、生花とともに飾りたい、とのことだった。
椅子と花が一体になった作品を1月4日の午前中に、活けてもらうよう華道家に依頼する。
椅子はあくまで座れるように設置し、フォトスポットとしても機能させたいらしい。
面白い試みだと思った。
僕なりのイメージも浮かぶ。
ただ、1月4日の早朝に搬入するとして、制作に使える時間は今日を入れても、5日間。
よく乾燥したいい木材が揃っていたとしても、一から作って間に合うとは思えない。
—
何かいい方法はないか……。
空調を入れたばかりでまだ温まらない作業場を、ウロウロと歩きながら考える。
ふと、アイデアが思い浮かぶ。
ポケットに入れていたスマホの写真フォルダを開き、過去の自分の作品から、目的の写真をスクロールして探した。
そして、その写真を見ながら、作業場に置かれていたスケッチブックに、アイデアを描き殴る。
頭の中のものを形にするため、夢中で鉛筆を走らせた。
うん、いい。
これなら、いける。
そして、きっと間に合う……。
僕は安堵の息を吐いた。
—
「おはよう、キヨ。ここに居たんですね」
シュウが僕を探しにやってきた。
まだ眠そうな顔をしている。
「シュウ!お願い、車を貸してほしいんだ」
「えっ。唐突にどうしましたか?この辺りは路面凍結していたりするから、慣れない君に運転はさせたくないな」
「じゃ、シュウは今日暇?」
「残念ながら、オンラインで会議が数本あります。でも、一体どうしたんですか?」
「いいアイデアを思いついたんだ!1月4日に向けて新作を作るためのアイデアを」
「それは!」
眠そうだったシュウの顔が、期待に満ちたものに変わり、前のめりになる。
「シュウも覚えていると言ってくれたでしょ?僕が昨年コンペに応募した、キングチェア」
「もちろん覚えています。骨太で重厚で、むしろ削りを最小限にして、木の存在感を活かしたものでした。先輩とやらによる蛇足がなければ、大賞を受賞していたでしょう」
「あの椅子は、マホガニーを使っている。マホガニーは、ワシントン条約で取引が規制されている今、とても貴重なんだ。でも、本当に運よくオールドストックの無垢材を手に入れることができて、僕は木をできるだけ残す形でキングチェアに仕上げた」
「えぇ。ラウンジやダイニングで使うには重すぎますが、インテリアとしての見栄えは最高でした」
「それでね。あのキングチェアを、削り直そうと思う。椅子の形をした状態から、新たな椅子を掘り出すんだ!どう、いいアイデアでしょ?」
「それは……、確かに見たい。そうして出来上がった椅子に座りたいと強く思います。エントランスに飾るにも、相応しいものとなりそうです」
シュウが同意してくれたことが嬉しくて、堪らず彼に抱きつく。
「しかし、そのキングチェアは今どこに?」
さすが経営者。
シュウはあくまで冷静だ。
「カラテア工房の埼玉県川越市にある倉庫にしまってある」
「交渉するのですか?あの椅子を使いたいと、唐津ツヨシに」
「しないしない!アイツはもうキングチェアのことなんて忘れてるよ。倉庫で埃をかぶってるはず。僕、倉庫の鍵、まだ持ってるし」
「まさか、キヨ。君は……」
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