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第21話「僕は取り戻しに行く」
【12月30日火曜日08:30】
「ワン、ワンワン!」
朝の散歩から帰ってきたソラと白い犬のハルが、作業場のガラス窓の向こうに姿を見せる。
「おはようございます。朝食、召し上がるならすぐに用意ができますよ」
「ありがとう。お願いするよ」
キッチンの勝手口へと入っていくソラを見送り、ハルを撫でながら僕は話の続きをする。
「キングチェア、盗むんじゃないよ。取り戻すんだ。だって、このままじゃ、倉庫で忘れ去られてゴミ同然。そんなの稀少なマホガニーが勿体なさすぎる」
「キヨの言い分も、分からなくはないですが……」
「僕が鍵を持ったままだったことを僕自身も忘れていたし、工房の人たちだって忘れてる。それくらい、滅多に出入りしない過去の作品をしまうだけの倉庫なんだ。誰かに見つかることは絶対にない」
「しかし……」
「軽井沢からなら片道2時間くらいでしょ?」
「まぁそうですけど。ちょっと考えさせてください」
「今日の夕方には作業を始めたいから、早く決めてよ!」
シュウは僕に、犯罪まがいのことをさせたくないのだろう。
つい学校の先生的な立場に戻ってしまうようで、悩ましい顔をしていた。
—
朝食の席につき、ソラが作ってくれた玉子サンドと、押し麦のスープを食べ始めようとしたときだった。
「ピコン」
また、音が重なってスマホの通知音が鳴る。
時計を見れば9時ちょうど。
鳥籠から今日の課題が届いたようだ。
僕はそれを音読する。
『文鳥のための鳥籠卒業課題その2。只今より24時間、ハグは3回のみ許可される。それ以外の性的な接触は禁ずる。また、互いに一つずつ我が儘をいい、それを許すこと』
「我が儘……」
サンドイッチを口にしようとしていたシュウの手は止まり、僕はニヤリと笑う。
「これはもう決まりだね、シュウ。僕の我が儘は、川越に椅子を取りに行くことだよ」
「……」
それでもなお考え続けるシュウの横で、僕はほんのり甘くて美味しい玉子サンドを頬張った。
—
「ソラ。よろしく頼みます。くれぐれも安全運転で」
「はい。細心の注意を払います」
「ハル、今日の仕事は見張り役ですよ。しっかりね」
「ワン!」
「そして、キヨ。私の判断が間違っていないことを祈ります」
「心配しないで、シュウ。ちゃんと椅子を持ってここへ戻るから」
僕からギュッとシュウに抱きつき、背中に手を回し1回目のハグをする。
シュウは僕の背をポンポンと、やさしく叩いてくれた。
「気をつけて。いってらっしゃい」
「いってきます、シュウ」
ソラの運転するワンボックスカーに乗り込む。
助手席はハルの特等席らしく、僕は後部座席だ。
こうして、シュウに見送られ、川越の倉庫に向けて出発した。
「上信越自動車道と関越自動車道を通って、行きは2時間ほどでスムーズに着くと思います。帰りは年末ですからね。もしかすると少し混むかもしれない」
「ありがとうソラ。よろしくね」
僕はスケッチブックを開き、キングチェアから削りだすデザインを煮詰める作業に、没頭した。
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