26 / 55

第22話「僕は血筋に抗えない」

【12月30日火曜日12:30】 細くカーブしている一本道の行き止まりに倉庫はある。 年末だからか、周りは人の気配がなく静まり返っていた。 シャッターの鍵を開け、ガラガラと大きな音を立てながらそれを持ち上げる。 埃っぽくだだっ広い倉庫は薄暗いが、流石に照明をつけることは、躊躇われた。 ソラはハルのリードを倉庫の郵便受けに結びつける。 「人が来たら吠えて知らせるんだよ、ハル」 おりこうなハルは、小さく「ワン」と鳴いて返事をした。 車から台車を降ろし、それを引っ張って倉庫に入っていく。 記憶通りの場所に埃をかぶったキングチェアが置かれていた。 かなりの重さだが、ソラが手伝ってくれたから無事に台車に乗せ、運ぶことができた。 出口付近で、ふと右を見ると、いつだったかお得意さんから引き取った豪奢なベッドが置かれている。 それだけなら少しも不思議ではないが、その上に布団が一式置かれていた。 ベッドの周りだけ、埃っぽさが無いことにも気がつく。 「どうかしました?キヨチカさん」 「いや、べつに……」 無事、何事もなく倉庫から車へと積むことができ、シャッターを施錠をする。 「楽勝でしたね」 ソラは拍子抜けしたように、そう口にした。 しかし、そのとき。 倉庫につながる細くカーブしている一本道を、一台の黄色い高級外車が進んできた。 一目見ただけで、それがツヨシの車だと分かる。 「うわっ。なんだよアイツ。どうして冬休みに、倉庫にやってくる理由があるわけ?」 僕が悪態をつくと、ハルは不審者だと気がついたようで、黄色い車に向かって吠えたてた。 ソラにも緊張感が滲み、僕はどう切り抜けようか頭の中をフル回転させる。 僕らの存在に気がついたようで、車は急停車する。 僕の姿を見て、怒鳴ってくるかと思ったが、どうしてか、ツヨシはなかなか車から降りてこない。 それどころか、車をバックさせようとする。 「なるほどねー」 左ハンドルの高級車の助手席には、女性が乗っていた。 カラテア工房の事務の若い女の子だ。 ツヨシは既婚者で、となると不倫の可能性が高いわけだ。 倉庫にあった布団も、何に使っているのやら……。 細くカーブした道での慣れないバックに、四苦八苦しているツヨシのところへ走っていき、運転席の窓をノックする。 ツヨシは観念したように車を止め、窓を開けてきた。 「何してるんだオマエ。工房はクビになっただろ。不法侵入だぞ」 僕はスマホを取り出し、パシャリと二人の姿を撮影した。 事務の女の子は、高級ブランドの紙袋を抱え、気まずそうに俯いている。 ツヨシがプレゼントしたものなのだろう。 「オマエ、なに撮ってんだよ!」 「昨年、フェイジョアのコンペに出したキングチェアあったじゃないですか?」 「は?突然なんの話だ」 「ほら、ツヨシさんが変なヘッドレストを付け足したばっかりに、落選したやつですよ」 「なんだと!」 「とにかく、あの椅子だけ、もらっていいですか?ていうか、もう車に積んじゃったんですけど」 「窃盗だぞ」 「じゃ、社長と交渉するしかないかな。この写真が役立つかも」 スマホで、今撮影した写真をツヨシに見せる。 「い、いや、オマエ、それは……、消せよ、すぐに、おい」 「消したら、あの椅子、もらってもいいですか?」 「やるよ、あんな出来損ない。所詮、コンペ落選作品だぞ」 「あざーす」 彼の見ている前で、写真を削除した。 ついでに、倉庫の鍵を返却のつもりで、車の中に投げ入れる。 そして、助手席の事務の子に向かって、一言だけ忠告した。 「ホテル代をケチるような男と不倫なんて、やめたほうがいいよ?」 ツヨシは怒って真っ赤になった顔で、車をバックで走らせ、去っていった。 — 渋滞にはまった帰りの車の中で、ソラは何度も同じ話をする。 「それにしても、格好よかったな、キヨチカさん。水戸黄門みたいだった」 「ソラくん、水戸黄門見たことあるの?」 「いや一回もないですけど、格好よかった」 僕はトラブルに出くわすと、肝が据わるタイプだ。 結局、組長である父の血をひいているのだろう。 「シュウには言わないでね、ツヨシと会ったこと」 「そうですか?言ったら驚いてくれると思いますけど」 「いや、絶対に言わないで」 念を押しながら、渋滞の道をノロノロと帰った。

ともだちにシェアしよう!