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第23話「僕はいけないハグをする」
【12月30日火曜日22:00】
持ち帰ったキングチェアを削る作業に、没頭していた。
「すごい集中力ですね。でも、そろそろ終わりにしませんか?」
作業場をシュウが覗きにくる。
パジャマにガウンを羽織っているから、もう風呂にも入ったのだろう。
時計を見れば、22時だった。
—
僕たちが別荘に戻ってきたとき、シュウは駐車場まで出迎えてくれた。
そしてキングチェアを作業場に運ぶのを手伝ってくれた。
「無事に手に入って、よかったですね。トラブルはなかったですか?」
「無かったよ。何の問題も起きてない」
「そう。それはよかった」
両手を広げ、僕をハグしてくれる。
離さなければ1回という理論の元、しばらくはそうして抱き合っていた。
なんだかんだで、僕も緊張していたみたいだ。
シュウの肩に顔を埋めて、彼のウッディな深い森の匂いに包まれると、気持ちが解れていった。
「僕、この椅子を、フェイジョアホテルのエントランスに飾ってもらうに相応しい新しい椅子へ、蘇らせるね」
そう宣言してからは、ずっと作業場にこもっていた。
夕飯は、ソラが上海焼きそばを作って持ってきてくれる。
申し訳ないが、どんな味だったのか、味わうこともなく、食べてしまった。
「ほら。お風呂に入ってきなさい」
「うん」
素直に従い、今日の作業を終わりにした。
—
風呂上りの僕にシュウはおかしなことを言う。
「ハグについてAIに訊いてみました」
「AIに?」
「えぇ。本当かどうかは知りませんが、ハグをすると「オキシトシン」という幸せホルモンが分泌されて、リラックス効果があるそうなのです」
「へー。確かに川越から戻ってきてシュウがハグしてくれたとき、すごく気持ちが解れたよ」
「私もです。無事に帰ってきてくれたのを嬉しく思ったせいもありますが、その後の仕事が捗りました」
僕は残り1回のハグを行使しようと、両手を広げシュウに抱きつこうとする。
「ちょっと待ってください、キヨ」
「えー、なんだよ」
「明日のキヨのパフォーマンスを上げるためにも、残り一回は最大級のハグをしようと、考えてみました」
「またAIに訊いたの?」
「いいえ。私が独自に編み出しました。キヨ、服を脱いで。あっ、流石に下着は履いたままで。いや、脱いだほうがいいかな?」
「え?」
真剣な顔をして、おかしなことを言うシュウが、面白い。
「私も脱ぎます。素肌と素肌が触れ合うハグのほうが、より効果が高いでしょう」
「まぁ、言ってることは分かるけど……」
「さぁ、布団に入りましょう。ベッドの中でハグをして、そのまま眠ればずっと触れ合っていられます」
「ムラムラしちゃったら?」
「それはダメです。これはリラックスするための行為なのですから」
—
上等なシーツの肌触りの良さを、全身で感じながら、ベッドに横になる。
冷たいシーツが、自分の体温で温まっていく感触が、僕は好きだ。
部屋の照明を消したシュウが、羽毛布団の中に入ってくる。
羽毛布団も上等なものだから、裸で眠っても寒さは感じないだろう。
「キヨ……」
そう呟いて、シュウは僕を引き寄せてくれた。
僕は彼の胸元に顔を寄せ、すっぽりと両腕に包まれる。
程よく鍛えられた胸筋は硬く、肌はすべすべとしている。
それはまるで、さっきまで削っていたマホガニーのようだ。
彼の心音を聞いてるうちに、意図せず胸は高鳴る。
僕の体温が上がってしまったのか、シュウの体温が上がったのか分からない……。
ただ、すべすべだと感じていたシュウの肌は、しっとりと汗ばんでくる。
これ以上の行為ができないことは、辛かった。
けれど、こうして寝るのも悪くはない。
僕は無理やり目を閉じた。
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