30 / 55
第25話「僕へのプレゼント」
【12月31日水曜日11:30】
キッチンでは、ソラが年越し蕎麦を打っているらしい。
僕は椅子を削っていて、シュウは作業場の一角にノートパソコンを持ち込んで、仕事をしている。
なぜシュウが作業場にいるのかは、今日の鳥籠の課題によるものだった。
『文鳥のための鳥籠卒業課題その3。只今より24時間、二人は同じ空間に居続けること。性的な接触は禁ずる。また、互いに一つずつ贈り物をすること』
「気が散りませんか?」
シュウは心配してくれたけれど、工房で働いていた僕は、周りがガヤガヤしていることに慣れている。
「全然大丈夫」
実際、作業を始めれば、近くにシュウがいることも忘れてしまうのだ。
—
「……キヨ、キヨ」
名前を呼ばれていることに遅れて気がつき、顔をあげる
作業場の中には、シュウだけでなく、見知らぬニット姿の男がいた。
「ごめんね、キヨ。また手を止めさせるけど、少しだけいい?」
「できるだけ薄着になって、こちらに立っていただきますか?」
ニットの男が僕に言う。
訳も分からずその指示に従えば、男はすごい勢いで、裁縫用のメジャーを僕にあて、数字をメモしていった。
「シュウ、なにこれ?どういうこと?」
「私からの贈り物だよ。1月4日に着るスーツを作ってもらおうと思ってね。鳥籠の課題じゃなくても、プレゼントする予定だったから、ちょうどよかった」
男はシュウと親しいらしく、軽口を叩く。
「えぇ、大晦日に呼びつけて、1月4日の朝までに仕上げるスーツは、さぞ最高のプレゼントでしょう」
「どうせ正月はすることないから、構わないって言ってくれたくせに。それにしっかり年末年始割り増しと、特急料金と、出張費を、上乗せして請求してくるのでしょう」
「はいはい、おっしゃる通り。……次は両手を肩の高さに上げていただけますか?今回フィッティングの時間が取れませんから、細かいところまで計らせてもらいますよ」
二人の会話をポカンと聞いていたが、ようやく授賞式の日に着るスーツのことだと気がつく。
「ありがとう!シュウ。そっか僕、授賞式に参加できるんだ」
「えぇ。大賞受賞の記念盾はキヨに渡せませんが、エントランスに飾る椅子の作者として紹介させてください」
採寸後、シュウはニット姿の仕立屋に、要望を伝えている。
生地はどれで、色はこれで、ボタンはそれで。
ポケットの形がどうの、裏地がどうの……。
シャツとネクタイと靴も、仕立屋経由でお願いするようだ。
「そっか、僕のオーダースーツ……」
仕立屋を見送り、幸せな気分で作業に戻ろうとするが、新たな客がまたやってきた。
—
「キヨチカ坊ちゃん、大晦日まで木を削って仕事だなんて、ご精がでますね」
「岩山!あっ、秘書の長谷川さんも」
二人とも大晦日とは思えぬほど、ビシッとしたスーツ姿だ。
まるで紳士服売り場のマネキン2体に見える。
「どうして二人が一緒に?」
シュウも不思議そうに問いかける。
「この秘書が、タクシーを捕まえられず、中軽井沢駅からとぼとぼ歩いてたから、車で来た私が乗せてやったんです」
「岩山さん、それはありがとうございます。しかし、貴方のことをお呼びした覚えはないのですが」
シュウと岩山は、少しだけ険悪だ。
「年越し蕎麦できましたよ!」
いいタイミングで、ソラが顔を出した。
「あれ、お客様ですか?追加でお二人分なら、用意できますから、どうぞ皆さんダイニングへ」
打ち立ての蕎麦が食べられるというだけで、皆の顔は明るくなった。
ともだちにシェアしよう!

