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第26話「僕はフクロウの秘密を知る」
【12月31日水曜日18:00】
岩山は、長谷川さんを助手席に乗せ、日が暮れる前に帰っていった。
ソラとハルも、1月3日の朝まで休みを取るらしい。
おばあちゃんの家に行くと言っていた。
「シュウ様に冷蔵庫の作り置きを、ご説明したいんですけど」
そう言って作業場にやってきたが、僕らは今、二人で一緒にいることが義務付けられている。
だから、二人してキッチンへ移動した。
冷蔵庫を開けると、三段重ねのおせちが入っていた。
平皿に盛ったオードブルもある。
「この土鍋の中に、今夜のカニ鍋がセットしてあります。卓上のコンロも出しておきましたから。しめの雑炊に使うご飯は冷蔵庫です」
「美味しそう!」
「こっちの鍋は、明日の朝のお雑煮です。グリルで餅を焼いて、汁に入れ、ひと煮立ちさせてください。あと、冷凍庫にも、カレーとかシチューとか作り置きがありますから、解凍して食べてくださいね」
「ありがとう。おばあ様によろしく伝えてください。ソラ、良いお年を」
「はい。シュウ様が持たせてくれたお土産、ばあちゃん喜ぶと思います。シュウ様も、キヨチカさんも、良いお年をお迎えください」
「ワン、ワンワン!」
「ハルも、おばあちゃんに可愛がってもらうんだよ!」
騒がしい一日だったけれど、ソラの車が去っていくと、別荘の中は急に静寂が訪れた。
—-
昼の年越し蕎麦は、随分と賑やかだった。
長谷川さんは、シュウにも、岩山にも小言を言い、シュウは、なぜか岩山と張り合う。
岩山は、長谷川さんのことが気になるのか世話を焼き、シュウには全く興味が無さそうだった。
いい年齢の大人の男たちが集まっているのに、みんな子どもみたいだ。
美味しい蕎麦を食べたあとは、作業場に戻った。
部屋の隅で、長谷川さんとシュウは真剣な顔をして、授賞式の打ち合わせを始める。
岩山は、彼らに聞こえないよう声を潜め、訪ねてきた理由を、僕に話し始めた。
「坊ちゃん、私はフクロウの遣いで来ました。1月3日に行われる試験についてです」
「あぁ、この前、新幹線の中でフクロウさんに会ったよ。イメージ通りのおじいちゃんだった」
「あの老人は、食えない爺さんです。年寄りだからって甘くみてはいけない。鳥籠の全権を持っているのがフクロウなんです。カラスの名簿も、文鳥のリストやマッチング記録も、データや書類に残されていない。全てがフクロウの頭の中にある。つまり、究極のセキュリティを構築してるんです」
「へー、すごい」
「今、坊ちゃんがやらされてる課題とかいうのも、あの爺さんが毎日考えてるんですよ。人情なんてものはなく「こうしたら、どうなるか」ってチェスでも楽しむように、反応を見てるんです」
「チェス……。でも僕らは出された課題をちゃんとやってはいるけど、監視されてるわけでも、報告するわけでもないよ」
「この別荘にだって、きっとどこかにカメラや盗聴器が仕掛けられてますよ。坊ちゃんがここ来る直前に、電気工事があったりしたんじゃないかと」
「……そういえば、ソラがそんなことを」
「でもまぁ大丈夫です。流出したりはしないですから。リアルタイムで見て、録画は残していないはずです」
「じゃ、今も……」
「全ての部屋じゃないと思いますがね。部分的には見張られていると思うべきです」
「怖っ」
僕はキョロキョロと作業場の中を見渡すけれど、それらしいカメラは見当たらない。
「それで、試験についてですが」
「そうだった……。どんな試験なの?」
「フクロウから言われた通りに伝えます」
岩山は、ゴホンと咳払いして話し始める。
「1月3日の夜。フクロウはシュウに電話をします。そしてそこで彼に問います」
「なんて?」
「文鳥を鳥籠に返しますか?それとも貴方の籠に入れますか?それとも外へ放ちますか?」
「なにそれ」
「外へ放つと答える以外は、失格だそうです」
「えーーーっ」
あまりに大きな声を出し過ぎて、心配そうにシュウがこちらを振り返った。
「ごめん、なんでもないから」
僕はより一層声を潜め、岩山に問う。
「それをさ僕に教えてるのは、どうしてなの?僕がシュウを誘導するかもしれないじゃん」
「それです。そこをあの爺さんは楽しんでいるわけです」
「シュウは5億円も払ったのに、僕らは「どうなるかな?」って実験されてるってこと?」
「5億円はフクロウとは関係ないので……」
「え?そうなの?」
「シュウはその話を坊ちゃんにはしてないのですね。まぁいいでしょう。あれはシュウの精算です。あの男が話さないのなら、訊かないでやるのが親切です」
僕は頭を掻きむしった。
「あー、訳わかんない」
またシュウが心配そうにこちらを見るから、僕はヘラヘラ笑って誤魔化した。
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