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SSその6「岩山と長谷川」

《シュウ》 大晦日の22時。 再び作業場で椅子を削り始めたキヨチカを、眺めている。 昼に作業場で、岩山と何かコソコソ話していたキヨチカ。 それ以来、何か気になることがあるようで、少し元気がない。 でも、椅子と向き合う間は雑念は忘れられるようだ。 集中力が凄まじい。 — 手元に置いた私のスマホが振動し、メッセージの着信を知らせる。 秘書の長谷川からだった。 彼は私の5歳年上。 自他共に認める男前で、大晦日も正月も休暇を取りたがらない仕事人間。 しかし、届いたメッセージは珍しく愚痴で、しばらくラリーを続けた。 『初めて伺いましたが、いい別荘ですね。もっと早く教えていただきたかった』 『今日は、来てくれて嬉しかったよ』 『帰り、岩山氏の車で中軽井沢駅まで送ってもらうつもりが、東京まで連れて行かれました』 『それはよかった。乗り心地の良さそうな車だったから、快適だったでしょう』 『そういう問題ではありません。しかもサービスエリアに寄ってコーヒーを買ってくれたり、やたらと世話を焼かれました』 『いつも世話を焼く側の長谷川が。たまにはそういうのも新鮮ですね』 『冗談じゃない。自分より7歳も年上の男にチヤホヤなどされたくありません』 チヤホヤ……。 想像すると笑ってしまう。 スーツ姿の二人がサービスエリアで、コーヒー一つをどちらが払うと揉めている姿を。 私は岩山氏のことは苦手だ。 今日だって、彼が現れたせいでキヨチカは何か不安を抱えた。 でも、悪い男ではないことも知っている。 『どこかでお会いする機会があったら、私からもお礼をお伝えしておきます』 『それが……。今夜、初詣に連れて行かれることになりました。もちろん私は断ったのですが無理矢理です』 『それはいい。寒いですから、暖かくして行ってきてください』 『私は、行きたくて行くわけではない!』 結局、何の報告なのか。 あれだけ仕事ができる男が、本心から嫌なことを断れないはずがない。 『長谷川、今年も一年世話になりました。感謝しています。来年もどうぞよろしく。良いお年を』

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