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第28話「僕は布団の中でぬくぬくと」
【1月1日木曜日08:00】
まだ暗い早朝に、目が覚めた。
けれど「課題」により、僕が作業場に行くのなら、シュウを起こして同行してもらわなければならない。
元旦の朝からそれは申し訳ないと思い、再び目を瞑る。
上質なシーツは肌触りがよく、羽毛布団は軽くて温かい。
シュウの足は僕の足に絡みついていて、その重さが安心感をくれた。
ここは、この上なく快適なベッドだ。
ヘッドボードには、昨晩僕がシュウへ贈った、削りカスのボンボンが置かれている。
僕が好きな、仄かに甘いマホガニーの香りが漂っているのも、大変心地いい。
シュウの規則正しい寝息につられ、すぐに眠みがやってきた。
だから最高に贅沢な、二度寝を味わう……。
—
次に目が覚めたとき、窓の外はもう明るかった。
「おはよう、キヨ」
シュウは目を覚ましていて、僕のほうに顔を向けていた。
「おはよう……。何時?」
「8時です。起きますか?」
「うーん。もう少し、こうしてたい」
「賛成です。私もこうしていたい」
静かで、ゆったりとした時間が流れていた。
シュウの手が僕のほうへ伸び、髪を梳くように、何度も何度も頭を撫でてくれる。
毛足の長い、幸せな犬になった気分だ。
「「撫でて」って甘えてくるハルの気持ちが、分かる気がするよ」
「気持ちいいですか?」
「うん、とっても。シュウ、手が大きいね」
僕は、シュウの右手を掴まえた。
そして、目の前まで持ってきて、窓の向こうの朝日にかざしながら、眺める。
「指もすらっと長くて、綺麗だ。ちゃんと磨かれた爪も縦長でいい形だね」
この指で僕にあんなことや、こんなことを……、と変な想像をしそうになってしまった。
それぐらい、美しく官能的な手をしている。
「キヨの指も見せてください」
今度はシュウが僕の左手を掴み、朝日にかざす。
「えー、見ないでよ。恥ずかしい。刃物を持つからタコができてるし、切り傷だらけだもん」
節くれだった指に美しさはない。
木を触っていると、水分を持っていかれてしまうので、ガサガサだ。
「キヨは左利きでしたね。うん、職人らしいいい手です。この手から、いつまでも眺めていたくなる椅子が生み出されると思うと、感慨深い……」
シュウに褒めてもらえば現金なもので、自分の手も悪くないと思えてくる。
「ここは?」
シュウが、僕の薬指にまだ新しい傷跡を見つけた。
「あぁ、昨日、ちょっと手が滑って」
「痛そうですね……」
「まぁね。でも、日常茶飯事だから」
シュウは僕の手を、自分の口元に持っていく。
そして薬指に、唇でそっと触れた。
そのまま、まるで祈りでも捧げるようにじっと動かない。
厳かな儀式みたいだ。
この静かな布団の中が「幸い」でいっぱいになって、堪らずに声をだす。
「シュウ。本当に、また会えて、よかった……」
ゆっくりと唇を離したシュウは「えぇ、本当に」と頷いてくれた。
……また二人して、ウトウトと微睡んでくる。
どうせ9時になったら、フクロウさんからのメッセージが届いて、通知音が僕らを起こすだろう。
それまでは、こうしてぬくぬくとベッドの中にいたい。
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