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第33話「僕は一人ぼっちになる」

【1月2日金曜日10:00】 チャコールグレーのスーツに着替えたシュウが、作業場へやってきた。 「そろそろ行きますね、キヨ。お昼は、ソラが冷凍してくれたカレーやシチューを食べてください」 「うん。あのさ、シュウ……」 そのタイミングで、また彼のスマホが鳴る。 邪魔されるのは何度目だろうか。 「はい。……そうですか。それはよかった。いずれにしろ病院へ向かいます。……はい、もう出発するところです」 通話は短く終わる。 「どうしたの?」 「VIPのお客様がレストランで食事を召し上がった後に、腹痛で苦しまれ救急車で運ばれたのです。万が一にも、レストランの食事が原因だと大変なことになりますから、長谷川が他のお客様にあたってくれたのですが、そちらは大丈夫でした」 「そう。大変だね」 「いえ。仕事ですから。キヨ、さっき何か言おうとしていましたか?」 「ううん。帰ってきたらでいいんだ。鳥籠の課題が終わる12時間後に、ね」 「はい。12時間後に。暖かくして過ごすんですよ」 「分かってる。シュウも安全運転で」 僕は駐車場でシュウを見送る。 車には薄っすらと雪が積もり、今も小雪が舞っていた。 — 一人で過ごす時間は、集中力が増し、作業が捗るはずだった。 けれど、静まりかえった別荘は、なんとも寂しく、心許ない……。 それでも、アームチェアの形は理想通りに仕上がっている。 今はヤスリがけで微調整しているところだ。 敢えて左右非対称にした背柱が、いいアクセントになっている。 エントランスに生花とともに飾られても、かなり映えるだろう。 ふと集中が途切れてしまう度に、僕は窓辺にいき、雪を眺めた。 作業場の中は温かいけれど、外は寒々しい白い景色だ。 次から次に降ってくる雪は、シュウが出掛けた頃より、大粒になっていた。 せめて白い犬のハルがいてくれたら、僕の気持ちも和んだだろうに……。 — 結局、何度も手が止まってしまうので、昼ご飯にすることにした。 冷凍庫のカレーと白米を、電子レンジで温め皿に盛る。 ダイニングルームがシーンとしていることが嫌で、テレビをつけた。 知らないタレントばかり出ている番組を眺めながら、カレーを食べる。 今まで、一人で食事を取ることが日常だったのに。 今は「美味しいね」と伝える相手がいないことが、寂しい……。 『ここで、天気予報をお伝えします。現在、関東甲信地方では、予想を上回る強い雪が降り出しており、かなりの積雪が懸念されます。特に内陸部では、不要不急の外出を控え、最新の運行状況や通行状況をご確認ください』 えっ。 シュウが帰ってこれなかったら、どうしよう。 新幹線が止まって、上信越自動車道が通行止めになったら、シュウは東京に足止めだ。 天気予報の衝撃で、僕の寂しい気持ちは加速してしまう。 まるでこの世に一人きりになってしまったかのように孤独だ。 心細くて、悲しくて、どうかしたら泣いてしまいそうで。 何より、こんな気持ちになる自分が、恥ずかしい。 一週間前まで、僕はちゃんと自分の足で立って生活していたのに。 ほんの短い間に、シュウの愛に依存し、弱くなっていた。 「シュウ。会いたいよ。早く帰ってきて……」 僕は作業場に戻り、とにかく集中しようと意識し、手を動かし続けた。

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