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第35話「僕はシュウを思って一人で……」
【1月2日金曜日22:30】
風呂に入らずに待ち続けていた電話が、22時半に、ようやく鳴った。
『キヨ、ごめんなさい。高速道路が通行止めで、新幹線も止まっているのです』
「シュウ……」
シュウのせいではないのに、恨み言を言ってしまいそうで、口をつぐむ。
『夕飯は食べました?』
「うん」
『お風呂には入りましたか?』
「まだ」
『今は作業場?』
「そう」
僕は高校生の頃のファミレスでの会話みたいに、ブスッとして、ぶっきらぼうに答える。
『寒くはないですか?暖かくして、』
「シュウは、シュウはどこにいるの?」
『私はフェイジョアの自室に戻ってきました』
「東京も雪、積もってる?」
『えぇ、都会の交通が麻痺するくらいには』
「ふーん」
『日付が変わる頃には、雪は止むそうです。明日にはそちらに戻りますから』
「何時頃?」
『それはまだ。こちらにいるとなると、余分な仕事も入ってきてしまって……』
「へー」
『とにかく、キヨ。暖かくして眠ってください』
「うん」
『おやすみなさい』
「おやすみ」
子どもみたいだと、電話を切った瞬間から反省するような会話だった。
でも、「寂しい」とか「帰ってきてよ」と口走らなかっただけでも、マシだと思いたい。
椅子は、明日には下地剤とワックスを塗れる状態になった。
僕はそれを今一度確かめ、暖房器具と照明を消し、風呂へ向かった。
—
一人で眠るには、このベッドは大きすぎる。
僕は寝付けずに、寝返りを繰り返す。
明日には、鳥籠卒業試験の答えが出てしまう。
シュウが不正解を選ぶかもしれない、という可能性が、怖くて怖くて逃げ出してしまいたい。
実際、雪が積もっていなかったら、僕はここから逃げていたかもしれない。
けれど雪のせいで、僕だってここへ閉じ込められているのだ。
東京へは帰れない。
ふと、ヘッドボードに置いてあるマホガニーのボンボンへ手を伸ばした。
一日中、椅子と向き合っていると分からなくなるけれど、この木の甘くスパイシーな香りは、シュウの匂いと似ている。
深い森のようなウッディな香り……。
その匂いを思いっきり吸い込むと、安心するだけでなく、堪らなくシュウに会いたくなった。
「シュウ……」
彼の使っている枕に、顔を埋める。
そうすれば、身体の中心が熱くなってしまう。
僕はパジャマのズボンに手を入れようとして、監視カメラのことを思い出した。
ベッドから降り、部屋の隅に小さく灯る間接照明を消し、真っ暗にする。
そして、スマホから動画サイトに載っているオーケストラ演奏を、大きな音量で再生する。
シンとした雪の夜に、重厚なクラシックが流れ出した。
うん、これで大丈夫なはず。
僕はパジャマと下着をずらし、まだ形を変えていないそれを握る。
シュウの綺麗な指を想像し、彼が僕を呼ぶ声を思い起こして。
手をゆっくり動かせば、呼吸が乱れてゆく。
「シュウ。ねぇ、シュウ、触って、ねぇ」
どうしてだろう、気持ちが昂って涙声になってしまった……。
腰がウズウズとして、もっと強い刺激が欲しくって、こんなんじゃいけなくて。
「足りない、足りないよ」
鼻を啜りながらここには居ない人へ、訴える。
ベッド脇の引き出しにあることを知っていたオイルを、取り出す。
僕は、オイルを纏った指で、後ろも触る。
指は奥へ奥へと、気持ちのいい箇所を探す。
「シュウ、もっと、シュウ、お願い、んっ……」
右手で硬くなったもの握り締め、左手で疼く後ろを触り、僕は快楽を追い求める。
シュウに抱かれているのだと、自分を思い込ませる。
高く高くへ、登っていって。
「あっ、あっ、もう、もうダメっ」
身体を震わせて、僕は果てた。
いつの間にかポロポロと零れ落ちていた涙を拭い、僕は眠るために目を閉じる。
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