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第37話「僕は皆に褒められる」
【1月3日土曜日10:30】
ふっと集中が溶けたとき、車が止まる音がした。
ドアが開閉する音や、話し声が聞こえてくる。
「ワン、ワンワン!」
顔を上げれば、作業場の窓ガラスの向こうに、白い犬のハルが駆けてくるのが見えた。
管理人のソラと、待ち望んだシュウが帰ってきたのだ。
僕は迎えに出ようと立ち上がり、ガラス扉を開け、渡り廊下に出る。
「キヨ!ただいま。遅くなってすまなかったですね」
シュウは真っ直ぐ僕に向かって歩いてきて、ギュッと抱きしめてくれる。
ほんの24時間だったのに、久しぶりに会えたかのように、愛おしげにハグしてくれた。
「おかえり、シュウ」
僕だって安堵し、シュウを抱きしめ返す。
そんな僕らの周りを、ハルが「ワンワン」鳴きながら、くるくる回る。
「ハル、お二人の邪魔しちゃダメだよ」
ソラも顔を出した。
彼は僕らが腕を解くのを待って、挨拶をしてくれる。
「キヨチカさん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「おめでとう。こちらこそ、よろしくね」
「この雪だるま、キヨチカさんが作ったんですが?めっちゃ上手ですね。ニッコリ笑ってるし。やっぱ才能ある人は違うなぁ」
妙に感心するのがおかしくて、僕は言う。
「椅子も見る?ほぼほぼ完成したよ」
「はい!是非、見せてください」
シュウとソラを、作業場に招き入れる。
寝かせて作業していた椅子を起こし、彼らの前に置く。
「うわぁ!格好イイ!自分、デザインとかまだよく分からないけど、座ってみたくなる椅子ですねー。川越から持ってきた椅子が、こんなに変身するなんて!」
素直な感想がうれしい。
シュウも、頷いてくれている。
「これ見たら欲しいって思う人、いっぱいいるだろなぁ。この辺の別荘の人たちは、こういうの好きだと思う。見せてあげたいなぁ」
需要があると言われるのは、とてもありがたい褒め言葉だ。
「ピンポーン」
そのとき、来客を告げるインターホンが鳴った。
「早かったですね」
シュウはそう呟き、玄関へと向かう。
そして、知らない男を伴って、作業場へ戻ってきた。
誰だろう?
リムレス眼鏡を掛け、長いコートを着た、気取った男前だった。
「キヨ、紹介します。華道家の柳田さんです。明日、キヨの椅子とコラボし生花を生けてくれる人です。ご実家がこの辺りなので、写真だけじゃなく、現物を見たいと、わざわざ来てくれました」
「あぁ、どうぞよろしくお願いします」
柳田さんは挨拶もソコソコに、椅子の前にしゃがみ込む。
「触っていいか?」
「はい、どうぞ」
触ったり、色んな角度から眺めたり。
彼の目線がプロフェッショナルなのは、よく分かって緊張する。
「いいな。うん、とてもいいよ」
そう言って、僕に握手を求めてくれた。
「ありがとうございます」
「シュウ、おまえ、まさかこの才能をフェイジョアで独り占めしようとか考えてないだろうな?そういうのは、やめろよ」
シュウがそれに返事をする前に、また来客が現れる。
「おぉ、完成したじゃないですか。キヨチカ坊ちゃん」
「岩山!」
「もっと早くに新年のご挨拶に伺いたかったんですけど、雪のせいで遅くなりました」
彼も僕の椅子を真剣な目で眺めてくれる。
「坊ちゃん。これなら、世界に通用しますよ。日本のホテルにチマチマ飾ってる場合じゃない」
「あんたもそう思うか?俺もそう思う」
「誰だ?おまえ」
「岩山、華道家さんだよ。明日この椅子と一緒にフェイジョアのエントランスに花を生けてくれるんだ」
「ほー、それは面白い。楽しみにしてますよ。坊ちゃんの椅子の魅力を消すようなことしたら、ただじゃおかない」
無駄にすごむ岩山が空気を凍らせたところで、ソラが皆に声をかける。
「自分のおばあちゃん特製のお汁粉、温めましたので、召し上がりませんか?」
どうやら、お汁粉に救われたみたいだ。
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