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SSその9「ソラの将来」

《ソラ》 おばあちゃんを家へと送り届ける車の中。 夜空には満月が浮かんでいる。 めずらしく白い犬のハルは、後部座席に乗り込んで、おばあちゃんの膝に頭をのせていた。 「ハルって確か、本当はもう少し長い名前だったわよね?」 ハルを撫でながらおばあちゃんが言う。 「そう。ハルチカ。シュウ様が名付け親だよ」 「あぁ。……さっきの職人、確かキヨチカって名乗ってたわ……。シュウさんは、ずっとあの青年を待ってたのね」 本当は夜に強くないおばあちゃんが眠たそうに、呟く。 今、この雰囲気なら、自分の気持ちを口にしてもいいと思った。 「あのね、おばあちゃん。ソラも椅子職人になりたいって言ったら、どう思う?」 自分も今年で23歳になる。 入った大学をすぐ辞めてフラフラしていたけれど、もう迷い続けてはいられない。 「だけどあんた、あたしの弟子にはならないって言ってたじゃない」 「うん。おばあちゃんの元じゃ、甘えちゃうから」 「あたしも孫には強く言えないからねぇ」 おばあちゃんは小さく欠伸をする。 「キヨチカさんの弟子にしてもらおうかと思って」 「あの人はあんたを甘やかさないのかい?」 「うん。キヨチカさん、やさしそうに見えて、いざという時、結構怖いんだよ。水戸黄門みたい」 「水戸黄門?でも、いいんじゃないかしら。あの青年は確かだよ。自分に嘘のない、良い椅子だった。それに誰かを指導するっていうのは、その人の成長にもなるからね」 おばあちゃんもハルも、スースーと眠り始めてしまう。 真っ暗な夜道を運転しながら、僕は決意を固める。 東京での授賞式が終わって、キヨチカさんがまた作業場に帰ってきたら、伝えてみよう。 「弟子にしてください」 そう伝えたら、なんと言うだろう。 きっと少し渋りながらも、OKしてくれるはずだ。

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