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第42話「僕はまさか夢を見ていた?」
【1月4日日曜日11:00】
東京駅でシュウと別れ、一旦自分のマンションへ帰ってきた。
新幹線を降りた時、シュウは僕に言い聞かせた。
「キヨ。授賞式は17時から、3階のコンベンションホールで行います。遅くても16時にはフェイジョアに来て、着替えるように。スーツが届いたら私の部屋へ運んでおきます。フロントでカードキーを受け取ってくださいね」
シュウは、忙しい一日となるのだろう。
急ぎ足で、フェイジョアへと向かっていった。
僕が自分のマンションに戻ったのは、12月27日に出かけて以来だから8日ぶりだ。
部屋の中は冷え切っていたし、洗濯機には、乾燥まで終わった洗濯物が入りっぱなしだった。
窓を開けて空気を入れ替え、洗濯物を畳み、モップをかけた。
この部屋でこうしていると、年末年始の出来事が、全て夢だったんじゃないかと、思えてくる。
やることが無くなり、ゴロンと自分のベッドに寝転んだ。
ホテルや軽井沢の別荘のベッドがどんなに高級で快適でも、長く使った自分の寝具は、やはり心地いい。
昨晩は作業所で毛布に包まって眠っただけだったから、正直、寝不足だった。
だから、いつの間にか、しっかりと眠り込んでしまった……。
—
……目が覚めたとき、長い長い夢を見ていたような気分だった。
ここがどこで、今が何日で、何時なのか、一瞬わからず、酷く戸惑う。
「んー」
スマホに手を伸ばし、時刻を見れば14時だった。
今日が1月4日で、ここは自分の家だと理解する。
17時から憧れのフェイジョアホテルで、授賞式に参加する……。
それは、夢の中の話だろうか、現実だろうか。
頭が混乱していた。
仕事をクビになって、文鳥として先生と再会して。
別荘に行ったら作業場があって、シュウと年末年始を過ごして。
さらにフェイジョアのエントランスに飾る椅子を作らせてもらった。
夢だとしても、あまりに出来過ぎている。
自分の身体を見渡して、夢ではない証拠を探す。
着ている服は下着を含め、全て8日前に着ていたものだ。
カバンを逆さまにしても、シュウや、軽井沢の別荘に関するものは何一つ出てこない。
僕は、とても怖くなった。
あれは、夢だったのか?
まさか……、いや、そんな。
とにかくフェイジョアホテルに行ってみよう、とは思えない。
それでもし違ったら、立ち直れないから。
僕は急いでシャワーを浴び、着替え、出かける支度をする。
そして、自分のマンションから二駅先、東京都三鷹市にあるカラテア工房へ行ってみることにした。
—
15時。
まだ冬休みのはずの工房事務所に人の気配があるのが、外からでもわかった。
様子を窺っていると、中から唐津ツヨシが出てきた。
「あれ、オマエ。クビになったくせに何しにきたんだよ」
ツヨシは、今日の授賞式のためにあつらえたのだろう、趣味の悪い三つ揃えのスーツを着ている。
「工房に戻りたいって頭下げにきたのか?まー、二度と俺に歯向かわないなら、パパに頼んでやってもいいけどな」
よかった。
僕が工房をクビになったことは、夢じゃない。
「俺、オマエと違って忙しいんだよ。なにしろ今日はフェイジョア・ウッドチェア・アワードの授賞式だからさ。クビを取り消してほしい件は、また明日、出直して来いよ、な」
どうやらツヨシは、ムカつくほど機嫌がいいらしい。
でも、その顔を見てハッキリと思い出す、川越での出来事を。
「今日はあの事務の子は一緒じゃないの?」
「な、なんのことだよ……。よ、余計なことを、口にするな……。それ以上言ったら、工房に、戻してやらないからな!」
やっぱり。
全ては夢なんかじゃなかった。
そのとき、スマホがメッセージの着信を知らせる。
そっか、最初からスマホを確認すればよかったんだ。
僕が撮った雪だるまの写真が、ちゃんと残っているではないか。
『キヨ、スーツが届きました。部屋に運んでおきます。16時までに来てくださいね』
シュウからのメッセージに『OK』と返信し、駅までの道を急ぐ。
後ろでツヨシが何か言っていたが、僕の耳には入らなかった。
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