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§13 内緒の宴

  「それでは、夕食の時間までゆっくりお休みになられてくださいませ」 「ありがとうございます」  俺の着替えを手伝ってくれた係にお礼を言った。今はお昼過ぎなので夕食まではまだ時間がある。  部屋に一人きりになり、係が用意していってくれたお茶を飲もうと腰掛ける。  窓辺から差し込む光に湯気が揺れ、金色の光を受けて淡く透ける。  コップを持ち上げて香りを楽しむとホッとした。口に含むと香りと同じように優しい口当たりとちょうどいい温度。  お茶を楽しみながら馬車の中で読んでいた本を机の上に出した。王城に着くまでにそれなりの量の本に目を通すことができたのは良かった。  忘れないうちに大事なことや気づいたことは紙に書いておきたい。というよりも、せっかくグレン様に教わったのだから忘れたくないという気持ちが強い。  俺は持参した荷物の中からノートとペン、インクを出し、本とノートを交互に見ながら書き記した。インクの匂いがほのかに広がり、静かな部屋にペン先の音が心地よく響く。  どれくらいの時間が経ったのか、部屋をノックされる音で意識が引き戻される。 「ライゼル様、ミレイでございます」 「あ! どうぞお入りください」  部屋を訪ねてきたのはミレイさんだ。俺はペンを置いて立ち上がる。 「そろそろ夕食ですのでお声がけに参りました」 「もうそんな時間だったのですね。声をかけてもらわなかったら遅れてしまうところでした」 「これは……」  ミレイさんはテーブルの上にある本とノートを見て驚いた顔をする。 「まさか、到着なさってからずっと書き物をなさっていたのですか?」 「はい」 「お疲れでしょうに……! ご無理なさってはいけませんよ」 「すみません……ついつい夢中になってしまって」  えへへ、と誤魔化し笑いをする俺にミレイさんは小さくため息をついた。  元々彼女が用意してくれた本で、この国のことを知る第一歩の資料としてはとても参考になる内容ばかりだったのでその慧眼には恐れ入る。 「それにしてもライゼル様は学ぶことがお好きなのですね」 「いやぁ、興味のあることしか続かないので好きというほどでは」  そんな風に和やかに話しながら部屋を出て一緒に食事へ向かう。  廊下の壁には油灯が灯され、ほのかな明かりが石造りの壁に揺らめきを作っていた。  城の内部は外観と変わらず落ち着いた雰囲気で、とても綺麗に掃除されている。  窓の外には夕暮れの尻尾が見える。夜がそこまできていた。  明日以降、城の中を探検させてもらえないかこの後グレン様に聞こうと思っている。  こちらです、とミレイさんが案内してくれた部屋の扉は予想していたよりも大きい。  扉の表面には精緻な彫刻が施され、豪奢だが重々しさも漂っている。  はて、今夜の食事は少人数でと聞いていた気がするのだが……と逡巡しているうちに扉が開かれる。  ギイイイイィィッッ…… 「「「「「ライゼル様! ようこそゼフィロス王国へ~!!」」」」」  待ち構えていたのは予想の何倍もの人数だった!  鮮やかな紙吹雪が宙を舞い、俺の髪に舞い落ちる。  色とりどりの衣装を纏った人々の笑顔が視界いっぱいに広がり、熱気が押し寄せてくる。  口を開けて固まっていると、横から楽しそうな声が。 「ふふっ、びっくりされましたか?」 「これは一体……」 「ライゼル様の歓迎パーティーです! さあ、どうぞ中へ!」  言われるがまま中へ進んでいくと、皆が俺の名前を呼んで拍手してくれる。  響き渡る歓声に胸が震える。目を瞬かせながら笑顔で会釈すると、小さく歓声が上がる。  ミレイさんに案内された先にはグレン様が待っていた。燭台の炎に照らされ、堂々と立つ姿はこの場の中心にふさわしかった。 「ライゼル王子。今夜は都合がつけられた家臣たちを集めました。よろしければ無理のない範囲で話をしてやってください」 「こんな場までご準備いただいてしまって……」 「……さあ、こちらへ」  優しい声に導かれ、グレン様の隣に立つ。同じ飲み物が注がれたグラスを渡されたので大人しく持つ。 「皆、留守の間世話をかけた。その甲斐あってライゼル王子をお迎えに上がることができた。感謝する。今宵はささやかだがライゼル王子の歓迎する席を設けたので、皆楽しんでくれ。……乾杯!」 「「「「「乾杯~~~~~!!!!!」」」」」  明るい音頭にグラス同士が当たる音。香ばしい料理の匂いと甘い果実酒の香りが混ざり合って広がっていく。  グレン様からグラスを傾けてくれて、それに応じる。見上げた先で視線が絡まり、グレン様の目が見開かれる。俺は今どんな顔をしているのだろう。    慌てて顔を逸らし、ミレイさんと乾杯をした。その後もゼフィロスの家臣の方々と挨拶をして交流をさせてもらうことができた。  中でも騎士団長のフーベルさんはとても明るく、気さくに話してくれた。 「改めましてライゼル様。騎士団長のフーベル・ゼラと申します」 「フーベルさん、スフェーンでの会合の際はお世話になりました」  そう、彼は兄さんたちとグレン様、ミレイさんとの会合の際に同席してくれていた。  その際はグレン様とミレイさんの護衛としての役割があったのであまり喋っていなかった。 「援軍にも参加してくださってありがとうございました」 「とんでもないことでございます。援軍に馳せ参じられたこと、誇りに思っております! ただ一つ惜しかったのは、ライゼル様の勇姿を見られなかったことですね」  フーベルさんは別働部隊を率いて俺やグレン様とは少し離れた場所にいたらしい。 「そんな大層なものではないですよ」 「いえ! 我が王がお褒めになるほどのお力、ぜひ見たかったです! もし鍛錬の相手が必要でしたらいつでも騎士団で歓迎いたします」 「フーベル。あまり余計なことは言うなよ」 「王はライゼル様のご活躍を長時間語っていらっしゃいました! ですよね、ミレイ様」 「えぇ、私も聞いておりましたよ」 「王子、少し外の空気でも吸いに行きましょう」 「え!? 良いのですか、まだお話が」 「良いのです。大した話でもないので全くお気になさらず」  すたすたと俺をエスコートするグレン様と二人を見比べるしかできない。  背後でミレイさんとフーベルさんは、小動物を愛でるような柔らかな顔をして俺たちを見送っていた。  

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