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§42 花露飲み干す獣*
夜の帳が明け、瑠璃色の空が白み始める。
一日のなかで一番心地よい気温なのは、日が昇り始めた時間帯だけになった。
城の周りを半周したところでこめかみから汗が垂れる。
体幹を意識しながら、一定のリズムで石畳を蹴る。横を走るブラスはさらに汗だくだ。彼の荒い息遣いが隣から聞こえてくる。
鼻に入る空気はまだ涼しいが、半刻もすれば太陽に照らされるすべてが熱を帯びるだろう。
息を整えながら日課の走り込みを終えたら、庭の植物の様子を見に行く。
「今のところはまだ大丈夫そうだな」
「そうですねェ、ライゼル様の魔法のおかげですが」
スフェーンから持ってきた種や苗はみずみずしい緑の葉を広げ、すくすくと育っている。ゼフィロスの夏の暑さに耐えられるか心配していたが、現状問題なさそうだ。
乾いた大地に根付こうとするその健気な姿。
これからも詳しく観察して、暑さに強い品種を作れたらいいなと思う。
その後ブラスと別れ、私室に戻る。
ちょうどグレンがベッドで起き上がって寝ぼけ眼を擦っているところだった。
領主会議が終わった日を皮切りに、ここ3週間と少しの間、グレンはよく眠れているようだ。
「おはよう、グレン。今日は自分で起きられたな」
「……ん。ライ……走ってきたのか」
「あぁ。まだ日の出の時間帯は涼しいから早めに起きて走ってきた」
そう言って、額の汗をタオルで拭う。
まだ半目しか開いていないグレンは気怠そうに手招きをする。俺は呼ばれるがまま彼の許へ近づく。
すると、逞しい腕を回されてベッドの中に引きずり込まれた。シーツの間に籠った、グレンの熱と匂いに包まれる。
「あっ、こらグレン! 俺、汗かいてるから」
「ライの、におい……」
「ッん、舐めるなぁ……っ!」
このやり取りも何度目か分からない。もはやお決まりの流れだ。呆れと喜びの入り混じった溜息が漏れる。
俺も嫌がっている風で言うが、内心満更でもないのを分かっているからグレンは止めないのだ。
グレンの熱い舌が首や胸を這う。そして着ていた服があっという間に脱がされる。
いつもと少し違うのは、上だけではなく下も脱がされてしまったことだ。
「ハーッ……らい」
舌足らずに俺を呼ぶ。もしや、半分寝てるんじゃないだろうか。
「グレン! 起きろ!」
「おきてる……」
低い声で唸るように答える。その目はまだ夢と現の狭間を彷徨っている。
「寝ぼけてるだろ! ……あ、んッ、ちょっ、ダメだってッ!」
胸の飾りをチロチロと舌先で弄ったかと思えば、あー、と大きく口を開いて俺の欲を咥えた。
「ンッ、んんっ、あぁ、ん……」
「ん……」
半勃ちだった欲も彼の熱い口内に包まれてあっという間に大きくなり、先走りが漏れていると分かる。
寝ぼけた顔のグレンは何度制止しても聞かず、美味い肉でも食べているかのような恍惚とした表情で口を動かしている。
舌が根元から先までねっとりと舐め上げたり、先を重点的に吸い上げられたりして、一糸纏わぬ格好を朝日の差し込む部屋で晒す背徳感に背中が泡立つ。快感が背骨を駆け上がっていく。
「やぁ、んっグレン、だめ……ッ」
シーツを握りしめ、必死に声を堪える。
「……ん~……?」
何がダメなのか分からない、と言う顔で不思議そうにこちらを見上げる。
「んんっあっ、ね、だめ、出るから、あっ! 離して、ひ、ぁっ、ア、ッ出るでる、ぁぁっ!!」
我慢できず漏らした白い露。熱い奔流がグレンの喉奥へと注がれていく。
グレンはそれを余すことなく大きな口で受け止めて、そのままごくりと音を立てて飲み干してしまう。
慌てた俺はこの期に及んでもまだ眠そうな顔をするグレンを揺する。
「こらっ、ダメだろ飲んだら! お腹壊すぞ! ペッてしなさい!」
「……腹が丈夫だから平気だ」
「そういうことじゃ……んっ!?」
グッ、と尻に押し付けられる硬い何か。それは紛れもなく、彼自身の昂りだった。
気付くのとほぼ同時に身体が軽々と持ち上げられる。グレンはすたすたと風呂に向かって歩く。
「ぐ、グレン……?」
「俺も、気持ち良くしてもらう」
「は、ええぇ……?」
目が据わっている。これは何を言っても聞いてもらえないだろう。
こんな朝から、という理性的な気持ちもある。しかし身体は正直で、熱を持て余しているのは明らか。
……自分がもっと強い快感を求めているのも、認めざるを得なかった。
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