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第5話
「────···ひっ、や、やだっ、やめてっ!!」
床で寝てると声が聞こえてきて勢いよく起き上がる。ベッドの方を見ると佐倉が魘されていて慌てて近づいた。
「佐倉、佐倉、起きて」
「っ、はぁ···あ、や、やだぁっ」
「起きて、大丈夫だから」
何度か声をかけると目を開けて俺の姿を確認した瞬間安心したようにまた眠る。近くにいてあげた方がいいのか?とそのまま佐倉の隣にいて手を繋いでてあげた。
***
「───羽島くん、羽島くん!」
「っん···」
ユサユサと肩を揺らされてゆっくり目を開けると見たことない景色が目に映った。
「ごめん。体、痛くない···?」
「あ···?あ···佐倉、俺は大丈夫だけど、佐倉はもう大丈夫?どこも辛くない?」
繋いだままだった手を離して寝癖のついてる佐倉の髪に手を伸ばす。ビクッと震えた佐倉。ああ、どうやら心には辛い酷い傷が刻まれてしまったようだ。
「だ、大丈夫だよ。そういえば羽島くんは何であんな所にいたの?」
「家出してきた」
「え!?」
「これからどうしよっかなぁって考えてる時に佐倉に会ったからさ」
「え、あ···そっか···じゃあ、タイミングよかったんだね···」
「まあ、うん」
そう言ってしまっていいのかわからないけど。
じゃあ佐倉も一応は大丈夫そうだし、そろそろ行くかなぁ、って思って腰をあげる。
「え、あの···どこ、行くの···?」
「そろそろ行こうかなって」
「こ、ここにいなよ!!家出してきたんでしょ?どうしよっかなって考えてたって、言ってたし、行くところ···ないんでしょう?」
一気に言葉を言われてとりあえず頷いた俺に同意と見なしたのか佐倉は「うん、うん!それがいいよ、そうしよう、よろしくね」と言い出した。
「いや、でも悪いから」
「僕が、嫌なんだ···一人、になりたくないっ」
「···わかったよ」
俺がいて安心するなら、それならいくらでもいてあげる。
ベッドに座ったままの佐倉に手を伸ばし髪を撫でる。困ったように視線だけ俺に向ける佐倉に笑いかけた。
「俺のこと、架月でいいからね」
「かづき···」
「俺は佐倉でいい?」
「···日向(ひなた)···日向って、呼んで」
「わかった」
試しに日向って呼んでみたら嬉しそうに微笑んだ。頬っぺたが少しだけ赤く染まってる。
「朝ご飯食べよっか!キッチン勝手に使っていい?」
「あ、うん、ごめんね」
「いいよ、まだ寝てな」
キッチンに行って冷蔵庫と冷凍庫を開ける。食パンはあるし、卵も野菜もある、男子高校生が1人で暮らしてる割に家も綺麗だし日向って見た目通り、しっかりしてるんだなぁって感心しちゃう。
ささっと簡単なご飯を作って日向のところに戻ると嬉しそうに笑ってありがとうとそれを受け取る。
「学校、どうする?行ける?」
「···今日は行かない」
「どうせ俺も行かないし、ゆっくりしとこっか」
日向の長い前髪が日向が動くたびに揺れる。それがうざったい。
「前髪切りなよ」
「いや、僕、不器用だし···お金もないから、いいんだ」
「じゃあ切ってあげる」
「本当···?」
「うん、これでも器用な方だよ」
ご飯を食べ終わって少しして洗面所に移動する。
ハサミを持ってちょちょいって前髪を切ってやると視界がスッキリしたようで、でもそれが慣れないからソワソワしていた。
「なんか、初めてちゃんと日向の顔見たけど、可愛い顔してるね」
襲われるのもわかる。
「···可愛いは、嬉しくない」
ぷくっと小さく頬を膨らませた日向に、小動物みたい、って思って手を伸ばし髪をワシャワシャと撫でた。
「な、何するの!?」
「なんか小動物みたいだね」
「小動物って···」
クスクス笑うと釣られたように日向も笑い出す。何だかすごく俺の気持ちも落ち着いてずっとこんなフワフワした日常であったらいいのにって、らしくない事を思った。
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