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第6話

それからそこで住むようになって数日経った。 「架月ー!行ってくるよ!」 「いってらっしゃい、遅くなるなら電話···って、俺電源入れてないんだった」 「大丈夫だよ、遅くなりそうだったら誰かと一緒に帰ってくるから」 それにわかったって返事して出て行く日向を見送り一人になった寂しい部屋に戻ってググッと伸びをする。 「ここ居心地いいから帰れないな···」 帰ろうとも思えないんだけど。 「掃除でもしておこっかな」 掃除機を探し出して部屋の隅々まで綺麗に掃除する。 終わった頃には腰が痛くってたまらなくて床にゴロンと寝転がった。 「痛いし、眠たいし」 あくびが出て瞼が重くなって、そのまま目を閉じてしまいそうになる。 さっき出て行ったばっかりだけど、早く日向が帰ってこないかなぁ。ってもう思ってる。 何でだろう、まだそこまで日向のことは知らないし、どうでもいいって思うのに、俺のことは放っておかないでって、そんな気持ちが溢れてくる。 ああ、いつもは絶対俺の隣に太陽がいるからかもしれない。いつもいる存在がいなくて、ただでさえ落ち着かないのに、その空いたスペースに新しい人が入ってきて、その人でさえ今隣にいないからだろうか。 「早く帰ってこないかなぁ」 そう呟いたのと同時に玄関がうるさい音を立てた。慌てて立ち上がり玄関に行くと倒れこむようにして日向がいて急いで駆け寄った。 「どうしたの!?」 「あ、あ、いつ、らが、いてっ」 「あいつら?」 日向が指すあいつらって、日向を襲った奴らのことだろうか。呼吸が荒い日向の背中を撫でてある程度落ち着かせ部屋に上がらせ水を差し出した。 「大丈夫?」 「ごめん、ごめん···情けないよね···」 「そんなことはないよ。そりゃあ知らない人に襲われたら誰だってトラウマになる」 まあ、俺は後ろに突っ込まれるのも突っ込むのも経験してるわけだから行為自体を怖いとは思わないけど。 「あ、っ···あの、か、架月に、お願いが、あるんだけどっ」 「いいよ?俺にできることならね」 「俺、襲われた、時に、いっぱい···その···キ、スされ、て···っ」 涙を目にためて、今にも溢れそうだ。 その目をじーっと見てると不意に顔が上がって視線がバチッとあう。 「キス、してくれ、ないかなぁ···っ!あ、···嫌なら、いいんだ···ごめん、こんなこと言って···」 「···キスくらいいいよ、おいで」 俯いていた日向を抱き寄せてキスをする。目を見開いて体を引いた日向に何の感情もわかないけれど、真っ赤に顔を染めた日向はそうではなかったみたい。 「な、なな、なんで!?」 「キスしてって言ったのは日向でしょ?」 「でも、本当に、する、なんてっ」 「何なの。俺にどうして欲しかったの?」 落ち着いたらしい日向に背中を向けると怒ったのだと勘違いして抱きついてきた。 「ごめん、なさい···」 「怒ってないけど···あんまりこういうことしたらダメだよ。俺ってすごい好かれてるんだーって勘違いしちゃうかもしれないから」 「······勘違い、じゃない、よ」 「今のは聞かなかったことにするね。じゃないと俺は日向と一緒にいられない」 振り返って笑顔で日向を見ると傷付いたようだ、表情に出てる。 「ごめんね」 「···ぼ、くの方こそ、ごめん」 気まずい空気が流れて、それでも俺はずっと笑って見せた。

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