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第14話 架月side
「ちょっと苦しい」
「でも寒いもん。あ、逃げないで」
朝起きてベッドから抜け出そうとする日向を捕まえる。もう寒くて起きるのが嫌だ。
「寒い寒い···」
「ちょっと!架月背中に手、入れないで!!冷たい!」
「いいじゃん、まだちょっと寝よう」
「良くないし、今ので目が覚めちゃったよ···」
溜息を吐いた日向の背中に額と手を当てて温もりを分けてもらう。そのまま寝そうになってそれに逆らうつもりもさらさらなく、瞼を閉じる。
「架月···?」
「ん···」
「寝るの?」
「ん」
くるって日向が俺の方に体ごと顔を向ける。
抱きしめて安定する体勢になって力を抜くと俺の胸あたりで日向がクスクス笑う。
「少ししたら起こすからね」
「ん···」
グリグリと顔を押し付けてくる日向の頭をポンポンと撫でてから意識をスーッと飛ばした。
光も何もないただの真っ暗闇で俺の名前を呼ぶあの声が聞こえた気がした。
俺が大好きだった、あいつの声。
初めて会った時は何も感じなかった。ただ面白そうだなって思っただけなのに、いつの間にかのめり込んじゃって、そのせいであんなに苦しい思いを···今でも引きずってる。
俺は俺だからって言ってくれたあいつ···真守にひどく心を許してしまったから、こんな事になったんだ。
そう理解しているから、もう2度と心なんて許さない。恋なんて2度としたくない、苦しい思いはもう、したくないんだ。
なのに、現れた日向って存在に心が揺れてる。
恋をして、また傷つくのは自分なのに、揺れてしまってる。だめだ、自分を律しないと。日向と距離をおかないと。
そうしないと、自分が自分でなくなってしまう気がするから。
────···き、かずき···
フワフワと浮いてるような感覚。
それが気持ち悪くてバっと目を開ける。
「あ、起きた?」
「···何、起こさないでよ」
「だってもう昼になっちゃう」
目の前にいる可愛い顔をした日向はふんわり笑ってそう言った。
「ごめん」
謝って起き上がって顔を洗い寝癖のついた髪を直す。
服を着替えると日向が眉を寄せて俺に近づいた。
「どこかに行くの···?」
「出かけてくる」
「帰ってくる···?」
「当たり前でしょ、俺帰る場所ないからね」
財布と一応電源の切れてる携帯を持って外に出る。
眩しい日差しが当たってすごく気持ちいい。
このまま少し離れたどこかに行こう。
夜までに帰ればいいだろう。
「真守に会いたい···」
太陽は会いたくなさ気だけど、俺は少しだけ会いたい。会って、今度こそちゃんとしたお別れができたら、俺も少しは変われる気がするから。
グッと伸びをして初めて通る道を歩く。
新鮮な気分ですごく楽しい。だから、このまま俺のことを誰も知らない場所に行けたらなって、思った。
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