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第29話
「起きろ!太陽!」
「···あぁ?何」
朧に体を揺すられ起こされる。
目を開けると朧がフッと笑っておはようってキスをしてきた。
「もう治ったのか?」
「マシになったし大丈夫だろ。今日は折角休みなんだし、寝てばっかなんて嫌だ」
「わかった」
体を起こすと朧がまたおはようと言って俺を抱きしめた。煙草の匂いとは違う、少し甘い匂いが心地よくて朧の首に鼻を近づけスンスンと匂いを嗅いだ。
「何嗅いでんだよ」
「いい匂いする」
「ふーん···」
朧も俺の首に顔を埋めて、スン、と匂いを嗅いだ後に舌を這わせる。
「ん···」
「あー!だめだ···よし、今から外行くぞ」
「え、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だって。ほら行くぞ」
引っ張られてコートを着せられ外に出る。
「どこ行くんだよ」
「さあ。どこがいい?」
「ゆっくりできるところ」
朧もきっと薬のおかげでピンピンしてるんだと思うし、無理はさせちゃいけない。
「何だよつまんねえな」
「じゃあ聞くなよ」
そう言うと唇を尖らせて拗ねてしまう。
どうしたものか、と悩んだ結果「わかった」と声を出して朧の目をじーっと見た。
「何がわかったんだよ」
「俺は朧がまだ体調が完全に治ったわけじゃないって思ったし、ほぼ昼夜が逆転してる朧と一緒にゆっくり過ごせる時間なんて1日に数時間だけって限られてる。だからゆっくりできるところって提案したのに、朧はそれがつまんないんだろ?じゃあ俺はこれから自分の思うように行動する。ってことで帰る!!」
「は?ちょ、何怒ってんだよ!!」
「怒ってない」
手をとられて無理矢理朧の方に体を向けさせられる。
「俺はもう大丈夫だから···お前となかなか外に行けないしって、思って···」
「俺のことは気にしなくていいんだよ。ついさっきまで高熱だったのに薬飲んでちょっと寝たくらいで治るわけねえだろ。例え治ったとしてもその日1日くらいはゆっくりしてねえとぶり返すんだよ」
トン、と拳を軽く朧の胸にぶつける。
軽い力だったのにグラッと揺れた朧、俺を見る目も揺れててそれからはぁ、と息を吐いた。
「ごめん、言い方···もっと別のがあったと思うけど、ちゃんと言わねえとって思った」
朧が控えめに俺の手に触れる。
それから子供が泣くのを我慢するような顔をして口を開き言葉を落とした。
「俺、本気でお前が好き、なんだよ」
「············」
「でも、お前は返事をくれねえ。好きって言ってくれたこと、ねえもん」
「それは···」
「今の俺が好きじゃねえなら、今の俺とは違う行動をとったら好きになってくれんじゃねえかなって」
俺の手を握る力が強くなって、そんなことを考えてた朧がひどく悲しくなって、手を握り返すと驚いたのか少し体を震わせて俺の目をじっと見つめる。
「そんなことしても、好きにならない」
「じゃあ、どうしたらいい!」
「···怖いんだよ」
眉を寄せる朧。微かに震える体に大丈夫だと言い聞かせながら口を開く。
「心を許した相手が居なくなって、会えなくなるのが。」
2度と、あんな思いはしたくない。
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