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第32話

「高校の時だ。学校の奴らと遊ぶだろ?周りのやつには門限なんかなかったし、俺だって孤児院のことなんで何にも考えずに遊びたかった。だから俺を気にかけてくれてた先生にさ、わがまま言ったんだ。皆と同じくらい遊びてぇって」 そしたらさ、って言葉を続けた朧は自虐気味に笑った。 「わかったって、言ってくれてな。俺は何も考えないでそう言った次の日に遊び呆けたんだ。後でそれがバレてその先生はどっかに飛ばされた。」 「え···」 「俺のせいでさ、そうなっちまったわけよ」 残念、って言葉も違うし可哀想だって言葉も違う。 何にも言えなくて黙ってるとクスクス笑って俺を強く抱きしめた。 「別に、悪かったなぁとは思ってるけど、ショックだったわけじゃないんだよな、あーあ、俺のために動くからだって···それだけ。多分俺ってすげえ冷たいやつなんだろうな」 素直に頷くとまた笑って俺の耳たぶを柔く噛んだ。 ビクッと反射的に反応すると、気づいてないかのようにはぁ、と息を吐いた。 「やっぱりかー!俺って冷たいんだ」 「冷たい、お前のせいで飛ばされたのに」 「だってさ?高校生だぜ?しかも男!なのに門限9時ってどうよ。」 「9時···は、ちょっとなぁ」 せめて10時とか?まあ俺は門限なんてないからわかんねえけど。 まあ、そんなことは置いといて。って言った朧だけど、その話始めたのお前だぞ?と思ったことは秘密にする。 「その先生な、孤児院の皆に好かれてたんだ」 「へぇ、優しかったんだ?」 「まあ、そうだな。···そいつが、俺のせいで飛んだってわかった途端、お前が出て行け、とかふざけんな、とか。だから出てきたわけだ」 「単純かよ」 「俺は単純だよ。···けど、寂しかった」 俺に触れる朧の手がやけに冷たい。 寂しい気持ちはわかる、1人は嫌だもんな。 本当の家族に会えなくて、育ててくれる家族であるはずのそこにもその絆が感じられなくて。 「勉強はできた。だから大学に行きたかったんだけど、金はないし。」 「だからホスト?」 「早く金貯めて学校行きてえんだ」 「···すごいな、お前」 そんな夢があることが純粋にすごいと思った。 俺の夢は?何1つ考えてない。 ずっと消えない忘れられない過去を振り返って前に進めないでいる。 「すごくはねえけどな。···でも、だから、頑張らねえとなぁ」 「···応援してる」 「ありがとな。···よし、俺は話した!お前も話せ!」 俺は話す気ないんですけど。 朧にジト目を向けるとそれを無視してフフンと笑う。 「話したくない」 「何でだよ、そんなんだと前に進めねえぞ」 「それでも話したくないんだよ」 思い出すだけで苦しいから、ほら、今だって胸が痛くてたまらない。 「俺な、お前のこと好きだから、お前のこと何でも知っておきてえの。お前の中に俺じゃない誰かを想ってる気持ちがあるのはとっくに知ってる。そいつのせいでお前が苦しんでるのもわかってる」 「···ならもういいだろ」 「だめだ、俺はお前を苦しめたくない。だから2度とお前が思い出さないでいいようにしてやりたい。それが無理でも、せめて、そいつとの思い出を幸せだったって思えるようにしてやりたい」 真守との思い出を幸せだったって? フッと朧は笑うと訝しげに眉を寄せた。 起き上がって、朧の上に跨ってキスをする。 「今はまだ話さない。俺は幸せだったって思いたくないから」 「わかった。···じゃあ、気を取り直してもう1ラウンド行くか!」 「え、嘘、マジで!?」 「さっき言ったろ」 そのあと、結局意識が飛ぶまで行為が続いて、起きた時には体が怠くて起き上がることができなかった。

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