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第33話

「お仕事行ってきまーす。行ってらっしゃいのキスしてください」 「···行ってこい」 「もっと可愛い感じで言えねえのかね。うちの奥さんは」 「誰が奥さんだよ」 朧の家に居候させてもらって早くも1ヶ月が経った。 昔からずっと隣にいたかのような気楽さと安心感を手放したくなくて、ズルズルとここまできてしまった。 玄関を開けてニコニコ笑って手を振る朧に笑顔を返して、パタンと閉められたドアの鍵をきっちりと閉めた。冷たいお茶を飲んでソファーに腰を下ろして静かになった俺だけがいる部屋でぼーっと過ごす。 「···はぁ」 やっぱり1人の時間は慣れない。 ソワソワしてテレビをつけたり消したり。 寂しく感じてベッドに潜り込むと朧の匂いがして落ち着く。 「早く帰ってこねえかなぁ···」 時間はまだ夜の6時で朧が帰ってくるのは大抵日にちを跨いだ後、遅い時は朝になってから帰ってくる。 ベッドから抜けて適当に飯を食ってさっさと風呂に入った。一人でいれば要らないことを考えてしまう。そんな時間は欲しくない。何も考えなくていいようにすぐにベッドに入って目を閉じた。 「おーい、太陽くーん!起きろー」 「重たい···」 「早く起きろってぇ、じゃねえと俺、遊びに行っちまうぞ」 「···起きるから、退けよ」 寝てる俺の腹の上に上半身を投げ出してる朧。風呂に入った後らしく酒臭さは感じない。 「いつ帰ってきた?」 「んー···30分くらい前かな」 「悪い、気付かなかった」 「いいよ、疲れてたんだろ」 いや、そんなこともなかったけど。 そう思って上半身を起こそうとすると両手を朧にとられて軽く引っ張られる。 「せーの」 「1人で起きれるけど」 「うん、そうだと思うけど」 朧に手伝ってもらいながら起きる。けど、最後、朧にそのままグイッと引かれて、いきなり朧との距離が縮まった。それに驚いて「わっ」と小さく声が漏れる。 「おはよう」 「···おはよう」 軽く触れるだけのキスをして見つめ合う。額と額をコツン、と合わせてふふっと笑い合った。

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