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第38話
「兄貴の知り合いは変な奴が多いね」
「お前も十分変だけどな」
「類は友を呼ぶってやつかな」
「それだと俺も変な奴になるだろ」
兄貴が笑って言いながら車に乗り込む。
助手席に座って携帯をいじる。
「もうどれくらい家には帰ってない」
「1ヶ月は帰ってないね」
「母さんたちから連絡は?」
「来てない」
携帯をポッケに入れてぐぐっと伸びをした。
「何か食いたい物あるか?」
「酒のみたい」
「···あのなぁ一応お前は未成年で···」
「とかいう兄貴も飲んでたの知ってるから。あー···もうやだ、やだやだやだ」
耳を両手で塞いで何も聞かないように外を向く。ガラスに映る自分が嫌で睨みつけるけどガラスの中の自分に笑われた気がしてイラっとした。舌打ちを零すと兄貴が「何イラついてんだよ」と俺の髪をガシガシ撫でる。
「やめろよ!」
「はいはい、ほら、着いたから降りろ」
スーパーについて兄貴と一緒に買い物をする。
そんなのいつぶりだ?って昔のことを思い出そうとするけど何年も前過ぎて思い出すのも面倒臭い。
「あれ食べたい」
「どれ?」
「あれ、あれ揚げたやつ」
するめの天ぷらだったっけ。
そう言うと「油飛ぶから嫌なんだけど」って言われて、それでも食べたい食べたいと何度と言うと渋々頷いてくれた。
「あとは?何食いたい?」
「お洒落な名前のやつ」
「何だそれ」
「わかんないけど、お洒落な名前のやつ食いたい」
「···お前ってやっぱり変だな」
とか言いながらもスマホで検索してお洒落な名前の料理を探してくれる。昔から優しい兄貴だったけど、ヤクザになった今でもそれは変わらないらしい。
会計を終えて車に荷物を運び兄貴の家に帰る。
久しぶりに来たそこには少しだけ懐かしさを感じた。けれどそれと同時に嫌悪感も湧き出てきてそれを振り払うように軽く頭を振った。
「酒ぇ」
「お前なぁ、手伝うとかしないのかよ」
「やだ、酒飲む」
「はぁ。···わかったよ、飲んでろ」
買ってきた酒を取り出してソファーに座りゴクゴク飲む。日向といた時はそんなに飲めなかったし、考えるのも面倒で自分のペースも何も考えずに自棄になって喉の奥に流し込んだ。
「あー···」
「お前何本飲んだんだよ」
「兄ちゃ···兄ちゃん···」
「はいはい、怪我すんぞ」
「兄ちゃん」
料理してる兄ちゃんの腰に腕を回して抱きつく。危ない危ないって言って兄ちゃんは包丁を手から離す。腰に巻き付いてる俺の腕を離してこっちに座ってろってテーブルの席に座らされた。
「ここで待ってろ」
「やだ···置いて、かないで」
そう言って兄ちゃんに抱きつくと何も言わないまま強く抱きしめられた。頭をポンポン撫でられて、なんでかわかんないけど涙がポロポロ溢れては落ちていく。
「···死にたい······」
ああ、なんか。とんでもないこと口走った気がする。
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