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第44話
「上がったー」
「ちょ、髪濡れてるし、服着ろよ!」
ポタポタと頬に落ちてくる雫に上を向いた。
髪をちゃんと拭いてないくせに、ソファーの背もたれを挟んで後ろから抱きしめてくる上半身裸のままの朧に、片手を上げて首にかけてたタオルをひったくり振り返ってガシガシと髪を拭いた。
「痛い」
「じゃあ自分で乾かしてこいよ」
「やだ」
「我が儘だな」
手を離すとすぐにパシッと手を掴まれて朧の頬に当てられる。
「んー···」
「何?」
「お前の手すげえ温かいよな」
「あー···うん、あんまり冷たくなんねえかも」
手を離してソファーから降り棚から適当に出した朧のTシャツをポイっと投げて渡す。
「それ着たら掃除するから」
「酒飲む」
「夜いっぱい飲むんだろ」
「···水飲む」
そうして朧はキッチンに行く。
帰ってくるのを待ってると携帯が震えた。
架月からか?と画面を見たら当たってて急いでかかってきていた電話に出る。
「架月?」
「···うん、何?」
明らかにいつもと様子が違うくて「どうしたんだ」って言葉が出てた。
「ちょっと、色々あって···今、兄貴のところにいる」
「···な、んで、兄貴のところに···?」
そこは真守が···あいつがいた所だ。俺たちが苦しんだのはそいつのせいなのに、そいつとの思い出があるそこに、何でいる。
「色々あったんだよ。」
「俺に話せない事なのか」
「誰にも話したくない。ごめん」
冷たい架月の声に何だか心が冷たくなってきて、携帯を持つ手が震える。
「あ、兄貴は···?」
「いるよ、代わるね」
電話の向こうで架月が兄貴を呼んでる。
今まで聞いたことの無いくらい優しい声で兄貴が架月に「どうした?」って聞いてるのが聞こえてきて、その違和感に心臓がバクバクと煩く音を立てる。
「───太陽か?」
「兄貴···な、何でそこに架月がいるの···」
「今、あいつを独りにしたら危ないって思ってな。喧嘩してる所を見つけて連れてきた。」
「へ、へぇ···危ないって、何?」
「あいつ、下手したら死のうとすると思うから」
それを聞いて胸が痛くなって床にしゃがみこんだ。
「何で···?」
「寂しいからだと思う。まあ俺が見てるから何かあったら架月じゃなくて俺に連絡してこい。今の架月はいつもの架月じゃないから」
そう言われて混乱してると、電話の向こうで架月が何かを叫んでる。兄貴は慌てて「じゃあな」って通話を切った。
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