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第52話

満たされたはずなのに、何故か苦しい。 隣で眠っている朧に抱きつくとそれが少し緩和された気がした。 「朧···朧···」 「···ん?何···」 薄く目を開けて俺を見て、ふわって笑う。その笑顔を見ると安心できて朧に自分からキスをした。 「どうした、何か不安なことあるのか?」 「···俺、朧に、話してない話がある」 「待て待て待て、今から話すのか、ならちゃんと起きる」 「いや、別に聞かなくていいんだけどさ」 「聞く、聞くから悪い。ちょっと待ってくれ」 急いで起き上がって目を覚ますために顔を洗いに行った朧は、すぐに帰ってきて何だ!と勢いよく前のめりになりながら言う。 「···落ち着けよ」 「落ち着いた」 「あっそう。···いや、そんな大した話じゃないんだけど」 朧の視線から逃げるように、床を見る。 「好きな奴がいたんだ。俺のことをちゃんとわかってくれて、本当にいいやつだった。」 真守のことを思い出すと胸がざわつく。すごく苦しいはずなのに、今でもまだ少しだけ、安心できる部分があって。だからこそ人をちゃんと好きになれない。すごく恨めしい。 「そいつに恋人がいたことはわかってた。喧嘩して出てきてた感じだったから。···でも、わかってたけど、好きになっちまってさ。すごく幸せだったんだけど、本当、突然だった。そいつの恋人が迎えに来たんだ」 あの日の光景は今でも脳裏に焼き付いて離れない。 一瞬にして表情が変わった真守。少し強張ってたけど安心したような、そんな顔。 「恋人にそいつが連れてかれてさ、それ以来、会えてない。けど、そいつのせいで本当に人を好きになるってことはどういうことなのかって、わかったんだ。だから今でもそいつの隣にいた時の安心感っていうか···そういうのを思い出して苦しくなる。何で俺の隣にいてくれないんだって、すごく腹立たしい」 「···本当にそいつのことが好きだったんだな」 「好きだ、多分本当に好きだったから、今でも憎いって思っちまうんだと思う」 「俺は、そいつの代わりになれてねえか?」 悲しそうな、寂しそうな目が俺を見て笑う。 それが切なく思えて朧の首に腕を回して抱きついた。 「あいつの代わりは誰にも無理だよ」 「············」 「···でも、朧には、あいつ以上のものもらってる。初めは好きになるつもりなんて、なかったんだけどなぁ。」 「今は?」 「···死ぬほど好きだよ、バーカ」 笑ってキスをすると俺の腰に腕を回してさらに身体をくっつける。温かい体温が、朧の愛情が、俺だけに感じられてすごく嬉しい。 「でも、やっぱり初めてした本当の恋って忘れられるものじゃないんだろうな。ずっと···思い出しては苦しくなる」 「それでいいんじゃねえか?痛い想いをしたんだ、多分もう2度と同じことは繰り返さねえよ」 ポジティブなのか、何も考えてはいないのか、そんな考えだけどそうだなって納得した。朧とキスを繰り返してまたベッドに横になる。 「好きだよ、朧」 「じゃあ俺はお前が俺を想う以上にお前のことが好きだ」 ふふん、と得意げに言う朧についつい笑みが漏れた。

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