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第60話
「ただいま」
玄関から声が聞こえて急いでそこに向かって走る。抱きついた俺をよろけながらも抱きとめた兄貴は「よしよし」って頭を撫でて俺を抱き上げたままリビングに行く。
「今日ね、俺頑張ったよ」
「へぇ···?」
「信じてないでしょ!掃除もしたしご飯も作った!」
そう言うと驚いた顔をして「お前が?」と一言零す。なんだよ、全然褒めてくんないじゃん。兄貴の腕から降りて舌をだし「クソ兄貴!」と言って1人ソファーにどさっと腰を下ろした。
「わ、うまそう」
「フンッ」
キッチンに置いてあった作ったご飯を見た兄貴はそう声を上げた。俺はそんなもの知らないと聞こえないふりをする。
「架月、怒んなよ」
「じゃあ何かして」
「何かって」
「知らないよ、自分で考えて」
俺の目の前まで来た兄貴は目線が合うようにしゃがみこんで、悩む仕草をした後、顔を上げて俺の唇に自らのそれをくっつける。舌が入ってきてびっくりして兄貴の腕を掴むけどそんなの御構い無しに口の中を蹂躙された。
「ん···っふ···、っ、はぁ」
「まだ怒ってるか?」
「···別に、怒ってないよ」
今度は触れるだけのキスをして俺の腰を抱き寄せた。
膝に兄貴の頭が乗って、柔らかいサラサラとした髪を撫でる。
「今日···すげえ疲れた」
「お疲れ様」
「俺じゃなくても良かったのに、俺と同じ立場のやつが動かなくてさ」
「うん」
「若に···燈人さんのことな。若にも来たなら悪いけどあれやってくれって言われて···。そもそも若があそこにいることは基本ねえから来たら来たでなんかあったんじゃねえかってソワソワした。」
兄貴が疲れた声でそう言う。
溜息をついて顔を上げた兄貴に笑いかけて「頑張ったね」って言うと兄貴も笑って「そうだな」って俺のことを抱きしめる。
「あ、忘れてた。」
「何?」
1番重要だったことを忘れてたみたい。
慌てようが異常だ。
すごい力で肩を掴まれたと思えば真剣な目で俺を見てくる。
「若がお前と話したいって」
「···なんで?」
今更真守のことで怒られるのかな。
いや別に正直そんなのどうでもいいけど。
「明日、一緒に来てくれねえか?」
「いいけど···」
少しだけ、不安を抱えてコクリと頷いた。
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