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第67話

おかしい。 遅くなるかもって言ってたけど、朝か、それより少し遅くなるかもって言っていた。なのに時間はもうお昼を回って1時。せっかく作ったご飯も冷えてしまってる。 「···何かあったのかな」 携帯を取って朧の携帯に電話をかける。 何回かコール音が聞こえて、それからプツッと切れる音。 ただいま電話に出れませんって、どうしたんだって焦ってしまう。 「飲みすぎて動けないとか···?」 心配になって迎えに行こうとか、思ったけどそういえば俺、朧の働いている店を知らない。こんなことなら聞いとけばよかった。 ソファーに腰を下ろして焦る気持ちを落ち着かせる。 その時、ガチャッと玄関が開く音がした。急いでそっちに行って朧に抱きつこうとしたら異変に気付いて立ち止まる。 「···おかえり」 「ただいま」 「···なあ、なんか、変じゃないか···?」 「は、何が」 初めて会った時みたいな、ギラギラしてる目。 怒ってるのかと思って一歩退いたけど、すぐに朧の近くに寄った。···だって、襟首に赤い血が付いていたから。 「どっか怪我してんのか···?」 「いや···これは知らない奴の」 「何が、あった···?」 「うるせえな、ちょっと放っとけ」 何があったのか知りたかった。たまたま見えた朧の手、手の甲が赤く腫れてる。酒の臭さとか気にならなくて俺の隣をスッと通って風呂に向かう朧に「なあ」と声をかける。 「あとで···ちゃんと、手、冷やそう」 「···ああ」 少しだけ、冷たい声。 心臓がうるさく鳴る。朧の姿が風呂場に消えたのを見てから地面にしゃがみこんだ。 「······何で···」 いつもあんなに優しい朧がそんな風になるなんて、知らない。俺には見せない顔があるなんて、知らない。 胸が痛くなって、それを唇を噛み締めることで耐えた。

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