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第74話

「ご馳走様でしたー!美味しかったー!」 「よかったよ!で、話は?」 グイッと俺の顔を覗いた真守に驚いて手に取った酒を落としそうになる。 「落としそうになったじゃん」 「ごめんごめん。ねえほら、羽島くんの話してよ!」 そう言ってくるけど、真守の代わりにっていうのがきっかけだから話していいものなのか少し躊躇ってしまう。 「えっと···」 「何?」 「俺が燈人に連れて行かれたのがきっかけなんだけど···」 「え、連れてかれたの?」 真守が驚いて燈人を見る。「こいつが暴れてたから」と俺を指差した燈人に「あー、納得」と頷いて「俺、ちゃんと警告したのにぃ」とジト目を向けてくる。 「腹が立ってたんだもん、仕方ないでしょ。だいたい喧嘩売ってきたのはあっしだし、俺は悪くないよ」 「喧嘩両成敗って言葉知らないの?」 「そんな言葉に縛られる俺じゃないよ」 ケラケラ笑ってみせると呆れたように溜息を吐いて「それで?」と続きを急かせてくる。 「それで、兄貴の家に行って···」 「え、それまではどうしてたの?」 「日向って奴のところにいた。」 「そうなんだ。それで?」 聞いてくるくせにそこまで興味ないのか次々!と言うからもう面倒になって一気に説明をすると真守は少し暗い顔になって「お、俺のせいだね···なんか、本当、ごめんね」と謝ってくる。 「真守のせいとかじゃないんだって。本当、今は兄貴がいてくれてよかったって思ってるし、兄貴じゃなかったらきっとこうやって真守と話せてもないからね」 「······今、幸せ?」 「うん、だから謝らないで」 何でだろう、酒も入ってるからかな。すごく真守にキスしたい。それは好きとかじゃなくて、ペット相手にしたくなるようなそれと似てる。 「···ねえねえ」 「んー?なあに?」 真守の服の裾をクイクイと引っ張ると俺の顔を覗いてくる。だから構わずキスをすると真守が目を見開いて俺の体を離した。 「だ、だめでしょ!俺には燈人がいるし、架月にはもう羽島くんがいるんだからね」 「おい、今キスしただろお前」 「燈人!怒らないであげて!多分酔ってるから!」 そのまま真守に抱きつく、久しぶりの感覚にふふって笑ってると後ろからすごい力で引っ張られた。 「あれ、燈人」 「それは許してねえぞ」 「······燈人···」 「あ、ちょ、おい···」 「燈人···」 燈人に手を伸ばす。抱きつくと温かいし体がしっかりしてるから頼もしい。 「え、と···ど、どうしよう···?とりあえず、今日は泊まらせる?」 「いや···羽島呼ぶ」 燈人に抱きついたまま目を閉じると突然の浮遊感を感じて目を開けた。 「羽島が迎えに来るまでここで寝てろ」 「···ん」 「おい、離せって」 意識がだんだん薄れてきて燈人の言ってる言葉が聞こえてはいるけど理解ができない。 頭を撫でられて「おやすみ」と真守の声が聞こえたような気がした。

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