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第75話 海side

久しぶりに1人で食べる飯は決して美味いとは言えない。 最近は架月に付きっきりだったからあいつがいない今がこんなにも静かなものだと思ってなかった。 初めは何となくや仕方なくで始まった赤石の代わりを埋める行為。 今では進んであいつが寂しくないようにとか苦しまないようにって、手を差し伸べて酷く入り浸ってる。兄弟で感じる愛とは別物のそれが胸の中に巣立っていってるのがわかって、それで本当に架月が幸せになれるのか。···なんて、そんなことを考えてしまう。 これも、1人でいるせいだ。 架月が帰ってきたらきっと、そんな考えはどこかに消えて、今にも架月に触れたい衝動が溢れてくるんだろう。それを抑え込んで平然を取り繕うのは兄貴としてのプライドのせいだ。そう、きっと。 そんなことを1人静かな部屋で思っていると携帯が鳴る。架月かな。と思って画面を見れば若からで慌てて電話に出た。 「はい!」 「架月が酔い潰れた」 「え···あ、すみません。すぐに迎えに行きます」 「別に慌てなくていい。···待ってる」 「はい」 架月はなかなか酒が弱い。 なのに自分は強いと思ってるのか何も考えずにガバガバ飲むからそういう事になる。 急いで支度をして家を出て、車を出し若のマンションに着く。駐車場に車を停めさせてもらって部屋まで行くと赤石がドアを開けて出てきた。 「やっほー」 「悪い、架月が何かしなかったか?」 「しなかったって言ったら嘘になるけど···別にそんな大したことじゃないよ」 「そうか···?」 部屋に上がらせてもらってリビングに行くと若がソファーに浅く座ってる。頭を下げると「いい、こっち来い」と俺を呼んだ。 そこに行くと架月が若の服を掴んだまま横になって眠ってる。気持ちよさそうな寝顔。昔から変わらないその寝顔を見るとフッと肩の力が抜けた。 「お前こいつとそういう関係なんだってな」 「っ!?か、架月から、聞いたんですか···?」 「ああ、真守の代わりでってことでその関係が始まったってのも聞いた」 どこまで話してるんだ。と思ったけど若は俺を見て優しく笑う。 「こいつ、幸せだつってたぞ」 「···本当、ですか···?」 「ああ、嬉しそうに笑ってな。な、真守」 「うん、きっと本当に羽島くんのことが好きなんだろうね」 そう言われると嬉しくて、目の奥が熱くなる。 架月の名前を呼んで軽く肩を叩くと薄く目を開けた架月はふわっと笑って俺の方に手を伸ばしてきた。 「兄ちゃ···何で、いるの···?」 「お前が酔い潰れたからって、連絡もらった」 「んー、ふふ···帰る?帰るの?」 「帰るよ」 「···んふ、わかった、起きる」 のそのそ起き上がった架月は俺の首に腕を回して抱きついてくる。そんなところを若に見せてしまうのは少しどうなのかと思ってやんわりそれを解こうとすると「いいじゃねえか」と若が笑いながら言う。 「すみません。···ありがとうございました」 「いい、架月にはまた来いよって言っといてくれ」 「はい」 赤石にも礼を言って歩きたくないという架月を抱き上げまた頭を下げてから部屋を出る。 「にいちゃん···」 「ん?」 「俺ね、俺···本当、兄ちゃんのこと、好きだよ···」 「···俺も好きだよ」 「んふふ」 ニヤニヤ笑ってる架月を車の助手席に乗せてシートベルトを締めさせる。 「帰ったら、エッチしたい」 「···もう眠いだろ、寝ろ」 「やだやだやだ!する!絶対起きてる。俺の目、今すごい開いてるでしょ」 そう言って両手で両目の瞼をグイッと持ち上げる。その顔が面白くてケラケラ笑うと架月もつられるように笑った。

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