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第82話

少しして真守と燈人は帰って行った。 お礼を言うとまた家においでねって真守が言ってくれて、俺の本気の初恋が真守で良かったと心から思った。 兄貴のいる部屋に戻るとトラさんが「ねえ」と声をかけてきた。顔を向けると妖しく笑っててげっ···と思う。 「別に襲ったりしないわよ。ちょっと手伝って欲しいの」 「あ、はい···」 「敬語なんていいわよ!さっきの赤石みたでしょ?いつもあんなんだから」 「···トラさんってさ、女の子になりたい人なの?」 「あら、そんなこと聞いちゃう?」 フフッと笑いながら俺にソファーに座るように促して目の前にコーヒーが置かれた。 「飲める?」 「うん」 「よかったわ。···で、あたしが女になりたいか、だっけ?」 こくり、頷いてコーヒーの入ったマグカップに口をつける。あ、これ美味しい。 「あたしはねぇ、あんまり女が好きじゃないのよ」 「···なら何で?」 「何でこんな口調なのか、よねぇ。まあそれはいろいろあったんだけど···聞きたい?」 「聞いていいならね」 どうしようかなぁとユラユラ揺れてるトラさんをぼーっと見てるといつの間にか目の前に綺麗な顔が迫ってきてて持っていたマグカップを落としそうになった。 「あたしはね、自分が心底嫌いなの」 「え···」 「以上でーす!ほら、お兄さん目覚めたみたいよ」 トラさんが兄貴の方を指差した。そっちに顔を向けると兄貴が小さく唸ってる。 「兄ちゃん···?」 「ん···架月」 「燈人と真守に言って病院連れてきてもらったんだ。今日はこのままここで安静だよ」 「···悪いな」 小さく笑って俺の頭に手を置きくしゃくしゃと撫でる。 その手をとって握ると「ありがとな」と一言言って深く息を吐いた。 「喉乾いた?お腹すいた?」 「···いや」 「あ、まだ寝るよね、ごめん。ゆっくり休んで」 兄貴のお腹あたりを軽くポンポンと撫でる。口元だけ緩く笑って目を閉じた兄貴を見ながら横目にトラさんを見ると穏やかに笑ってた。 さっきとトラさんの言葉の意味を考えながら兄貴の様子をずっと見ていた。

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