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第88話
1度来たことのある家、インターホンを押すと恐る恐るって感じで日向が出てきた。
「あ、太陽くん」
少しばかり明るくなってる顔、そんなに窶れてもなくて安心する。
「悪い。中入っていいか?」
「うん、どうぞ」
日向が小さく笑う。遠慮なく中に入ると「どうしたの?」首をかしげて聞いてきた。
「···ちょっと、逃げたくなった」
「誰から?」
「···全部から」
日向は俺に手を伸ばしてとんとん、と背中を撫でてくる。
それに刺激されるように目から涙が溢れてきて零れた。俺、こんなに弱かったっけ?もしそうだとして···いつから?もしかしてそれは朧と出会ってからなのかもしれない。ゴシゴシと袖で涙を拭って笑顔を貼り付ける。そのまま日向の方を向いた。
「きっともう少しで架月に会えると思うぞ」
「本当!?···でも、何で?」
「あいつ、ちゃんと前向いて歩きだしたから」
「···太陽くんは?」
「······俺の話なんていいからさ、日向は今どうしてんの?」
そう言って日向を見ると大きな目が歪む。
「僕は大丈夫だよ、最近すごく優しくてかっこいい人が僕の話聞いてくれるんだ。そのおかげでちょっと楽になった気がする」
「その人って?」
「ふふ、秘密!」
あんなに苦しんでた日向でさえ、こうやって前を向いてるんだ。なのに何で俺はそれができないんだろう。
「太陽くん、太陽くんは今、楽しい?」
「···さあ」
「もし楽しくないなら、いつもと違うことしてみたら?今までしてきたことがそう思えないなら新しいことしないとね」
「そうするのも嫌な時ってあるだろ」
「でも、そしたら何も変わらないよ。辛いときに踏ん張らないともう2度と楽しい時間なんて来ないと思う」
そんなもんなのかな。架月は、日向は、そうやって踏ん張ってきたのか?なら、俺1人がここに取り残されるのは1番嫌だ。
「ちょっと、頑張ってみる」
「うん。いつもの太陽くんになったら、また会いに来て欲しいな」
「ああ、今度は架月を連れてくるよ」
「待ってるね」
まだ目に残ってた涙がぽろっと落ちる。
日向はそれを笑って俺より小さい、そのくせに温かい手で拭ってくれた。
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