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第93話 架月side

家についてはぁ、と息をついた。 帰ってくる途中、出会った太陽は俺から逃げるように足早にどこかに行ってしまった。それを思い出すと悲しくなってくる。生まれてから、いや、生まれてくる前から母さんの腹の中でもずっと一緒だったのに。 「架月」 「ん?」 「太陽のことで落ち込んでんのか?」 体調も回復した兄貴が俺の顔を覗いて眉を寄せる。こくり、頷いて兄貴の首に腕を回しキスを強請ると1度だけ触れるキスをしてくれて、それから俺の腰あたりに手を回して抱きしめてくれた。 「俺から、逃げたみたいに見えたから」 「···まあ、実際お前から逃げたんだろうな」 「何でかな、真守のことで怒ってるのかな」 「違うと思うけどな」 リビングのソファーに腰を下ろした兄貴の膝の上に座って向かい合わせになる。兄貴の肩に頬をつけて「じゃあ何で」と言葉を落とす。 「自分自身が嫌になったんじゃねえの。仮にもお前の兄って立場だろ?なのにお前は赤石のことを許せていて、兄である自分が許せてないのが恥ずかしく思った、とか」 「···俺はそんなのどうでもいいのに?」 「お前にもし弟か妹がいたら、わかるよ」 「兄ちゃんはわかんの?」 「一応お前らの兄貴だからな」 納得はしてないけど理解はした。 弟には格好悪い姿を見せたくないらしい。そんなこと思わないのに。 「ねえ、兄ちゃん」 「あ?」 「じゃあ兄ちゃんが太陽に話ししたら聞いてくれると思う?」 「···さあな」 太陽の気持ちは俺が弟だからわからないみたい。 なら、兄貴は?と思ったけどそれもわかるかどうかがわからないらしい。 「難しいね」 「そうだな」 「どうしたら太陽も楽になれるんだろ」 前みたいな···ずっと一緒にいたときみたいな、あの頃の太陽に戻って欲しい。痛む胸をそっと撫でた。

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