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第96話
「ただいま」
帰ってきてすぐ、兄貴のところに走って飛びついた。
「危ねえだろ」
「ただいま!!」
「はいはい、おかえり」
頭を撫でられて兄貴の肩に額を当ててグリグリする。
「ちゃんと謝れたのか?」
「うん」
そのまま落ち着いてると頭を撫でられて柔く体を離される。
「太陽に感謝しねえとな。」
「うん···太陽、俺と会ってくれるかな」
「今は無理かもしんねえな」
太陽も頑張ってるし、それを邪魔するなんてできない。
兄貴の首に唇を寄せて強く吸うと「おい」って怒られた。
「兄ちゃんもつけて」
「俺はあんまりそういうの好きじゃねえんだけど」
「やって」
「···わかったよ」
首筋に兄貴の唇が触れる。
一瞬痛みが走って顔を上げた兄貴と目があってふふっと笑われる。俺はすごく満足で。
「···架月」
「ん、何?」
真剣な顔をした兄貴が俺をじーっと見る。
何か怖いこと言われたりするのかな、それとも太陽のこと?何でもいいけど今のこと沈黙の時間が嫌だ。
「1回家に帰れ」
そう言われた途端音が止んだ。
胸が張り裂けるように痛くなる。
「···何で?」
「母さんたちが心配してる。俺のところにさっき連絡があった」
「今更どんな顔して帰ったらいいのさ」
「···俺もついていくから」
「それでも嫌だよ。きっと俺の思ってることなんて1ミリも理解してくれないんだろうし、正直もう理解してもらわなくてもいいしね。」
そう言って兄貴から離れてリビングのソファーに座る。それ以上そのことについて話したくないからテレビをつけて音を大きくした。後ろから聞こえた「···はぁ」って溜息なんか聞かなかったことにして。
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