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第97話
「飯食わねえのか」
「いらない」
兄貴と話をしてから、全然食欲が湧かない。
絶対家の話をしたせいだってイライラしてると「おい」って頭をグリグリ撫でられる。
「何」
「行きたくねえなら、俺がそう言っておくから。機嫌直せ」
「今はそれでいいかもしれないけど、このまま帰らなかったら近いうちにここに母さん達来るよ」
「···何がそんなに嫌なんだよ」
「俺のことをわかってくれないことだよ。そもそも出ていっていいって言ったのは母さんたちだよ。今更会って何話そうってのさ!」
座ってたソファーから立ち上がって大きい声を出すと眉を寄せて「うるせえ」って言われた。ふん、と無視をして寝室に逃げようと思ったけどそれも面倒になってまたソファーにどさっと腰を下ろす。
「お前は自分のことをわかってもらう為に何かしたのか」
声のトーンが低くなった。兄貴の声が頭に響く。
振り返ったら真剣な目が俺を見ていて怯みそうになった。
「してたつもりだよ。でも、わかってくれなかった。俺たちが小さい頃なんて見分けすらつけてもらえなかったんだ。その悲しさなんて兄貴にはわかんないだろ!?」
「俺は双子じゃねえからな」
「すごく、辛いんだよ。···頑張って手伝いしても、太陽ありがとうって言われるんだ。きっと今だって髪色戻したらどっちがどっちだかわからないよ」
「でもお前のこと、ここまで育ててくれたのは母さん達だろ」
そんなこと言われちゃ何も言えない。黙って俯く。
けどそれでも辛いものは辛いんだ、仕方ないじゃんか。
立ち上がって家を出ようと廊下に出ると腕を掴まれて無理矢理兄貴の方に体を向けさせられた。
「いつになってもお前の母さんはあの人だけだぞ。」
「···わかってるよ、そんなこと」
「母さんに心配かけてるんだ。···お前は何をするべきなのかわかってんだろ」
「うるさいなっ!もう放っといて!」
手を振り払って走って家を出る。
俺が間違ってるのなんてわかってる。
あの日、家を出た時にはもう気づいてた。
でも、帰りたくないのは、俺を否定されるのが怖かったから。
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