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第105話

久しぶりに来た兄貴の家は懐かしい匂いに混じって架月の匂いがした。架月は寝てるから静かに。と思ってリビングにきたのになぜかソファーに踏ん反りがえってる架月がいて兄貴も驚いてる。 「架月、起きたのか」 「起きたのかじゃないよ!何も言わないでどっか行っちゃってさ!」 「悪い、寝てたから起こすのもなと思ってな」 「バカ!」 「···悪かったって」 兄貴が架月の傍に寄ってよしよしと頭を撫でる。 架月はまだ俺がいる事に気づいてないのか兄貴の首に腕を回してキスを強請ってた。 「···今はダメだ」 「はぁ!?何で」 「太陽がいるぞ」 「えっ!?」 間抜けな声を出して俺の方を振り返った架月。 小さく笑って手を振ると壊れたロボットみたいにギギギっと首を動かして兄貴を見つめ、兄貴の首に回してた腕を解いて膝の上に手を置いた。 「あ、別に俺は架月と兄貴が何をしててもどうも思わねえから···」 「違う、そういう事じゃない。太陽もいつの間にかバカになっちゃったんだね」 「何だそれ」 架月は眠いのか目を擦って寝室に戻ろうと立ち上がる。けど突然目をパッと開けて俺を見て「何でいるの?」と小さく首を傾げた。 「ちょっとな」 「···ふーん」 あんまり架月には何があったとか言いたくなくて、誤魔化すとそれを察したのかそれ以上は何も聞いてこなかった。 「兄ちゃん」 「あ?」 「俺寝るから!」 「···はいはい、おやすみ」 「おやすみ!」 兄貴が架月に手を振る。 寝室に消えてった架月、少しして兄貴は俺の前にビールを置いた。 「飲めよ」 「···うん」 「で?何があったんだよ」 「いや、本当に1人なのが寂しかっただけ」 缶のプルタブを開けてビールを流し込む。 息を吐くと兄貴は「なら寂しい時はいつでもここに来い」と言ってくれた。 「1人でいたら余計な事もずっとグルグル考えちまうだろ?お前と架月は本当に似てるな、あいつも1人でいたら寂しいって、ほら、さっきみたいにな」 「ああ」 さっきの架月の様子を見てたら成る程なって思う。でも俺と架月は似ていても、同じではないからあいつみたいに寂しいって思いを伝える術をそんなに持ってない。 「寂しいって、言ったら呆れられないかな」 「お前の事、本当に好きならそんなことないだろ。むしろ寂しい思いをさせてごめん、って言うんじゃねえか?」 「···俺の事、本当に好きでいてくれてると思う?」 「俺が知るかよ。···でも」 1度言葉を切った兄貴が俺を見て小さく笑う。 「お前は俺の自慢の弟だからな。それなのにお前の事を無下に扱ったなら俺はそいつを死ぬ事以上に苦しめてやる」 「兄貴怖ぇよ」 「それぐらいお前の為ならやるってことだよ」 フッと笑って俺に手を伸ばし頭をわしゃわしゃと撫でた兄貴は「今日は泊まってけ」と優しい声で言った。

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