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第114話

家の前まで来てインターホンを押すのを躊躇う太陽。俺もあんまり押して欲しくなくて何も言わないでいると、後ろでどさっと重たい物が落ちるような音が聞こえて振り返った。 「あ、母さん···」 「あんたたちっ!!」 落ちたのは買い物袋だったらしい。 中に入ってた物が地面に落ちてるのなんて目もくれず俺たちに抱きついてきた。 「よかったぁっ」 泣き出した母さんに何も言えず太陽と目を合わせると母さんが「中、入りましょう」って落ちた買い物袋と物を拾って玄関の鍵を開け中に入る。 「今日お父さんは仕事なのよ。あ、2人ともお腹空いてない?何か作ろっか?」 「···いらない」 「俺、喉乾いた」 いらないって言った太陽は少し戸惑ってるようだ。いや、俺もそうだけど。まさかこんな優しくされるなんて思ってなかったから。 「架月は海のところにいるって知ってたけど、太陽は···朧さんって方の名前は海から聞いてたの、でもそれ以外はわからなくて···」 目の前にお茶を置く母さんは話を続ける。何で怒らねえの?って不思議に思ってると太陽が「なあ」と言葉を落とした。 「怒ってねえの···?」 そんなわけ、あるはずないのに怒らない母さん。ふんわりと笑って俺たちの頭に手を乗せる。 「怒る、より安心した気持ちの方が大きいからかも。それに私もひどいこと言っちゃったからね。···ごめんなさいね」 母さんの言葉に泣きそうになってグッと唇を噛む。 謝らないといけないのは俺たちなのに。 「ごめん、なさい」 「架月?」 「俺···自分勝手しすぎた、ごめん」 「···いいのよ。誰にだってそう言う時期があるし、私だってそういう時かあったのに、ちゃんとわかってあげようとしなかったの。だから、架月も太陽も、そんな顔しないで」 温かい、俺たちよりも小さい手。なのにこんなにも安心するのはやっぱり特別な存在だから。 「帰ってきてくれてありがとう」 我慢してたはずの涙が頬を伝って落ちた。

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