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第147話

「あ、新奈ちゃんきたよ」 昼休み、凛の声に振り返ると凛ちゃんが首を傾げてそこにいた。 「今日は架月来ねえんだ。俺で悪いけど一緒に飯食うか?」 「あ、はい!」 近くの椅子を借りて隣に座った新奈ちゃん。初めて見たときより表情が柔らかい。よかった、とコンビニで買ってあったおにぎりとコーヒー牛乳を出した。 「あの、ご飯···それだけで足りるんですか?」 「足りる足りる。午前中寝てたからすげえ勉強したってわけじゃねえし、午後からもそんなんだし、腹減らねえんだ」 「ね、寝ちゃ、ダメなんじゃ···」 「細かい事は気にしちゃ負けだって誰かが言ってた」 おにぎりにかぶりついて食べてると、ふざけてるのか、本気で喧嘩をしてるのか、胸倉を掴みあいながら段々とこちらに近づいてくるクラスメイトの男子が2人。 ボーッと眺めてると1人が拳を振り上げて思い切り相手を殴った。飛んできたそいつは俺が飯を食っていた机にドンとぶつかって、机も、座ってた椅子も、俺も、地面に倒れた。 「きゃぁ!太陽くん!」 「ぶはは!!巻き込まれてるぅ!大丈夫か太陽」 新奈ちゃんの心配そうな声と、凛の腹立つ声が聞こえてきた。今倒れてきたやつと、凛のせいですげえイライラする。 「あ、やば、太陽怒ったかも」 凛のそんな声が耳に入ってきたけど、反応ができない。 俺は上に乗っかったそいつを無理矢理退かせてその顔に拳を打ち付けた。何度かそうしてるうちにそいつは泣き出して、ついでに言うと鼻血も出していて汚い。 よくよく考えたらこいつはさっきも殴られて俺のところに飛んできたんだ、可哀想だなぁ、と少し思ったけどそんなこと今はどうでも良すぎて。 「あちゃぁ···」 「り、凛くん!太陽くんを、止めてくださいッ!」 「わかってるよ」 止めろ止めろってガヤガヤしだした教室、元はと言えばこいつを殴ったやつが、そんなことしなかったら俺に被害はなかったのか。 目をこいつを殴ったやつに向けた。 そいつはヒッと喉を鳴らして逃げようとする、それを止めて胸ぐらを掴んだ。 「喧嘩するなら他所でやれ、俺を巻き込むんじゃねえよ」 「ご、ごめんなさいっ」 手を離して自分の倒された机と椅子を元に戻す。地面に落ちてしまっていたコーヒー牛乳と食べかけのおにぎり。コーヒー牛乳はまだ開封してなかったからよかったけど、おにぎりはダメになった。それにも苛立って、まだ隣で泣いていたそいつを1度蹴りつける。 「はーい、太陽終わり。落ち着きなよ」 「······俺のおにぎりがダメになった」 「おにぎりなら俺が買ってあげるからさ、ほら座って。新奈ちゃんも怖がっちゃってるよ」 椅子に座らされて開封されたコーヒー牛乳に刺されてるストローを口の中に突っ込まれた。それをチューチュー吸うと甘い味が広がって落ち着く。 「落ち着いた?ならちゃんと新奈ちゃんに謝りなよ」 「······ごめん」 「い、いいんです!!それより太陽くんは怪我してませんか!?」 大丈夫だと笑ってみせる。 視線を下に下げると白いシャツについてしまってる赤い血。ああ、さっきのやつの鼻血か。 そのさっきのやつを横目で見たら抱えられて保健室に連れて行かれるところだった。あー···あとで照ちゃんに呼び出されたら面倒だなぁ。 「帰りたい···」 小さく呟いて、コーヒー牛乳をまたチューチューと飲んだ。

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