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第154話

早速兄貴は錦に連絡をしてくれた。 「錦、いいってよ」 「でもどこでするの?場所、広いところないと危ないよ」 「親父にもさっき確認した。組に来ていいって。まあ何度か行ってるしな。···ただ高校生が組に出入りしてるって見られたらちょっとまずいな」 「ちょっとじゃないよ。結構だよ」 ググッと伸びをして楽な格好に着替える。 準備をして兄貴と一緒に家を出て車に乗り込んで少しすると何度目かの厳つい門がお出迎えしてくれる。 「俺さ、ずっと思ってたんだけど何でこんなに厳ついの?これ」 「知らねえ、先代に聞け」 いや、先代を俺は知らないんだけど。 そんなことを思いながら車を降りて兄貴と一緒に幹部室へ。 その部屋に入るとゲームをしてる錦と見覚えのある人がソファーで眠っていた。 「佐助、起きろ」 「······眠い···」 「でも仕事だ、早く起きろ。」 兄貴が眠っていたその人···佐助さんを揺すり起こした。ゆっくり目を開けたその人は俺をじーっと見て「羽島の、弟···?」と小さく呟いてまた目を閉じてしまう。 「羽島、仕方ねえよ。昨日抹茶が遊んでくれって激しかったみたいで寝れなかったらしいから」 「知らねえよ。···錦、今日はこいつのこと頼む」 「わかってるよ。なぁ、架月!お前と遊べるなんて楽しみだわー!」 ゲームを置いて俺のそばにやってきて肩を組まれる。 それに嫌な感じはしなかったから「うん、お願いします」って言葉を返したら満足そうに笑って俺の頭をワシャワシャと撫でた。 「でも何で鍛えんだよ、お前十分喧嘩強いだろ」 「喧嘩はするなって言われたから、刺激ほしいなぁって思って兄貴に言ったらあんたと稽古でもしたらどうだって」 「へぇ···」 ニヤニヤ笑う錦は「じゃあ早速行くかぁ」と俺と肩を組んだまま部屋を出ようとするから俺は兄貴に「行ってくるね!!」と声をかけてから錦についてった。 「魁ってわかるか?」 「ああ、1番最初に突っ込んでいく人のこと?」 「そうそう。俺は組同士の抗争の時その役割を担ってて、ついでに言うとお前の兄貴は殿な」 「殿···兄貴が最後なんだ」 魁もそうだけど殿も危ない役割だ。 組同士の抗争を俺は知らないけど、きっととても怖いものでそこを戦い抜いた兄貴達は俺の思っている以上に強い。 「で、だ。殿はお前の兄貴で、ということはあいつも相当強いのに俺をお前の相手に選んだ、何でかわかるか?」 「さあ…」 「···ふはは!!聞いて驚け!!俺が真面目な仕事を受け付けないからだ!!」 「クズじゃん」 錦はケラケラと笑って俺の肩をバシバシ叩く。 「まあそんな話はどうでもいいんだけどな!!」 「何だったの今の時間は!」 「いやー!真面目な話をしても面白くねえだろ。」 「途中まですごく真面目な話だと思ってたよ。」 溜息をついたところで「着いたぞ」っていう言葉が聞こえた。離れみたいなデカめの建物からはドン、とかガンッとかなんか凄い音が聞こえてくる。ここ、本当に安全なの?って疑いたくなるよ。 「皆頑張ってんなぁ」 「中に稽古してる人いるの?」 「そりゃあいるさ、稽古も何もしなくて俺はできるんだーとか言ってる奴ほど早く死ぬからな」 その建物の中を覗くと汗を流して地面に倒れこんでる奴が1人いた。そいつに対して周りにいた奴らが「ほらー死ぬぞー」と軽く重たい言葉をかけている。 「あいつは新人な。···あーあ、ありゃもう無理だろ。───オーイ、お前ら、そこら辺にしとけ」 錦が声をかけると全員が「おはようございます」と深く頭を下げて言ってる。倒れてる人に目もくれずこっちにやってきたそいつらに俺は少しイラっとした。 「錦、あのタオル使っていいの?」 「ああ、勝手に使え」 「水は?」 「あの冷蔵庫の中。ちなみにあの冷蔵庫は俺のだから中のは何でも勝手にとっていいぞ」 錦の指をさした場所を確認してから棚にまとめて置いてあったタオルと冷蔵庫の中にあったペットボトルのミネラルウォーターを持って倒れてる人のそばに寄る。 荒い呼吸を繰り返して地面で寝てるその人は俺を鋭い目で見た。 「何だ、お前···」 「はいこれ。汗拭いて、そんだけ汗かいてるんだから水飲んで」 見た感じ、この人はそんなに年が離れてないように思える。

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