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第163話

「ここの部屋、好きに使ってくれ」 話も終えて、1度家に荷物を取りに帰って、またやってきた。部屋を案内してくれる兄貴は普段と何も変わらない様子で。 「なあ兄貴」 「あ?」 兄貴の何ともないような目が俺を見て首を傾げる。 「その、抗争って···兄貴が1番危ねえんじゃねえの?」 「まあ、そうかもな」 「···怖くねえの?」 「怖くねえって言ったら嘘になるけど···怖がってちゃ何もできねえよ」 そう言って笑う兄貴、もしかしたら大怪我をして···突然会えなくなるかもしれないのに、何でそんな風にしていられるのかがわからない。 「兄貴は───···」 「にいちゃ───ん!!」 言葉を続けようとしたのに架月の兄貴を呼ぶ声に遮られた。架月に適当に返事をしてから「何だ?」って俺に聞いてくるけどやっぱりいいや。 「ううん、何でもない」 「そうか?」 じゃあまあゆっくりしてろ。って俺の頭を撫でてから朧を見て小さく笑って会釈した。そのまま架月の呼ぶ方に足を向ける。 「お前の兄貴ってなんか、すごいな」 「うん、俺も今そう思った。」 俺は兄貴にはきっと一生をかけても追いつけないんだろうと思う。俺の強い訴えで俺と朧は同じ部屋になって、中に入って荷物を置くと床に座った朧が俺を呼ぶ。 「何?」 朧の隣に座って顔を覗き込むとフッと柔らかく笑って俺にキスをしてくる。触れるだけのキスだけど、それでもすごく甘くて温かくて、俺も思わず笑みが漏れる。 「お前のことは、俺が守るよ」 「じゃあ俺も、朧のこと守るって約束する」 もし何か起こっても、絶対に。 この時はまだ、知らなかった。 きっと何も起こらないだろうって笑ってた。 こんな形で崩れるなんて、想像もしてなかった。

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