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第166話 架月side

「で、朧」 「あ?」 目の前で呑気にあくびを零しやがった朧に苛立ちを隠せない。俺の肩に顔を埋めて動かないでいる太陽はひどく傷ついていて、さっきから泣きっぱなしだ。俺の前で泣くことなんて滅多にない太陽。なのに今の状況、俺が何とも思わないわけがない。 「お前は兄貴の名前を知った時、すげえ動揺してたよな。あの時気付いたんだ?俺たちが羽島海の弟だって」 「···まあ、そうだな。だからすげえ驚いたよ、まさかこんな身近に俺が探してたやつがいたんだって、な」 「なら、何で1ヶ月も待ってた?上に報告するなら早めのほうがいいに決まってる、なのに何で俺たちの家に1ヶ月も居座ってたんだよ!!」 たまらず怒鳴り声を上げると余裕をぶっこいて朧は顔に笑みを浮かべる。俺の手足が自由なら今すぐに殴り殺してやるのに。 「信頼を作った上で、裏切るっていうのはすげえ楽しいんだ。」 「趣味悪いな、お前。まあいいや···ところで、お前はどこに所属してる誰なんだよ。本当のこと教えろ」 「···高崎組だ。まあ、そこに入ってるわけじゃねえけどな」 俺にとっては朧が堅気だとか、そうではないとか正直どうでもよくて高崎組っていう単語だけが頭の中でグルグル回る。 そもそも桜樹組を敵にするってなら組員の周りを隈なく調べつくす筈。高崎組には入ってなかったとしても、結果的に俺たちは朧のせいで捕まってるわけだから朧は俺たちの顔を知っていたに違いない。 太陽に初めて会った時に上に報告することはいつだってできていた筈だ、なのにそうしないでずっと一緒に暮らしてた。それも、クソみたいな趣味のため? いや、きっとそれだけじゃない。 一緒に暮らしてた1ヶ月間を思い返せばそうじゃないことはわかる。 「バカなお前に教えてやる」 「お前自分の状況わかってんのか?よくそんな口がきけるな」 朧の言葉は無視をして口元に弧を描いた。 痛む頰なんて気にしてられない、ゆるゆると上がる口角、それを見て朧は俺をきつく睨む。 「お前は俺たちに手を出すこともできないよ」 きっとこいつは心から太陽が好きだから。 太陽が傷つくことなんて、本当はしたくないから。 「自分がしたこと、死ぬまで後悔しろ」 でも、それは俺だって同じなもんで。

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