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第172話
「俺が1人で行くから架月は兄貴達の所に行け」
「やだね、俺も行くよ」
何度もそう言って駄々を捏ねる子供みたいになってる架月に困ってたら、誰かの足音が近づいてきた。慌てて架月と隠れるとそこに現れたのは朧で俺はすぐに朧に飛びついた。
「朧!」
「っ、まだいたのかお前ら!」
その言葉に「は?」と眉を寄せると俺と架月の腕を掴んで引っ張る。
「早く逃げろ!」
「お、朧も逃げよ···」
「···あのな、俺はお前らを売ってんだ。なのにお前らと逃げるなんておかしな話だろ。」
朧は嫌なやつを演じるのをやめて俺にいつもの素の顔を見せてくれた。
「太陽も、架月も···悪かった、本当に···」
「もういいから、お願いだ。一緒に帰ろう」
「···帰っても今までと同じようにお前と一緒に暮らすのは無理だ」
「それでもいい!お願いだからっ」
朧の胸倉を掴んで何度も訴えかけるのに柔らかく笑って俺の頭を撫でるだけ。
俺を強く抱きしめたかと思うと「おい、架月」って架月を呼んで話し出す。
「お前、怪我ひでえな」
「誰かさんのせいでね」
「···早く太陽連れてここから出ろ。上はもう桜樹組に抑えられてる、高崎組のやつらが何とか逃げようとしてお前らを使うかもしれねえ」
「じゃあ、逃げるから、朧も無事に帰って来なよ。太陽が悲しむから」
「···なるべくな」
俺の体を離して小さく笑う朧にもしかしたら最後になるかもしれないって思って涙が出てきて止まってくれない。俺の頬を伝う涙を指で拭った朧はそのまま俺に1度キスをして何処かに行ってしまった。
「太陽、泣いててもいいけど兎に角ここから逃げるよ。」
「···ああ」
架月が俺の肩を強く叩くから、そのせいで涙は散って1度深呼吸をして顔を上げた。
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