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第191話

トラさんは朧を見ても何も言わなかった。 多分、俺達のことは兄貴かそれか浅羽組の誰かから聞いているんじゃないかと思う。 「ずっとまともな食事をしてなかったのなら暫く胃に優しいものを食べた方がいいわね。」 「なあなあ、朧大丈夫?疲れてるだけ?病気とかはしてない?」 不安でそう聞く俺に鬱陶しがることなく、優しく微笑んで「大丈夫よ」と言ったトラさんに心底安心する。 「で、架月くん?貴方何してるの?」 「え?次ここにユキくんが来た時に渡しておいてもらおうと思って」 「その、折り紙?」 「うん!俺上手でしょ」 「···ごめんなさい、私そういうのは疎くて、何を作ってるの?」 「え?鶴だよ」 「つ、る···?」 架月は昔から美術センスもないし手先も少し不器用だ。 確かに架月の手の中にあるのは鶴には見えなくもないけれど、折り紙はもうシワだらけで形も綺麗ではない。 「ユキくん喜ぶかなぁ!」 「···そ、そうね、多分喜んでくれるわ!」 トラさんの戸惑いを隠せない声が面白くてくすくす笑った。 朧はボーッとどこか一点を見たままで「大丈夫?」と声を掛けると驚いた表情で俺を見てコクコクと頷いた。 その様子を見てまた不安になる。 「家でゆっくり休ませてあげて」 「本当に朧大丈夫なの?」 「大丈夫よ。疲れてるだけ。」 優しく笑って俺の髪を撫でたトラさん。 朧の前に手を差し出すとゆっくり手を掴んでくれてそっと引っ張れば立ってくれた。 「家に帰ろう」 「···俺と、お前の?」 「うん。」 「···帰る」 口元を優しく歪めた朧が俺の手を強く握ったから、嬉しくなった。

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