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4-15.
病室へ戻るなり、カイはソファーへ腰を下ろし、そのままずるずると背もたれへ沈み込んだ。
「……つかれた」
瀬戸が、そんなカイの前に温かいお茶を置く。
「小児科のお手伝い、いかがでしたか」
「もうさ、あいつらホント容赦がないんだよ」
「まだ、本調子ではございません。
……無理だけはなさいませんよう」
「無理はしてないかな。
意外なことに、結構懐かれてさ。明日も来てほしいって言われたから、行くって約束した」
「そうですか。
でしたらなおさら、午後はきちんとお休みして、体調を整えましょうね」
「じゃあ、しっかり休むために、リハビリはキャンセル……」
「それはそれ、これはこれでございます」
「ちぇっ」
カイは不満そうに口を尖らせた。
だが、次に瀬戸がテーブルへ弁当箱を置くと、すぐに顔を上げる。
「誉のごはんだ!」
「はい。今朝、お預かりいたしましたよ」
「会いたかった。起こしてくれればいいのに」
「退院までは我慢なさいと、若さまが仰せです」
「兄さんのケチー」
カイは頬を膨らませながら、弁当の蓋を開ける。
すると、すぐに嬉しそうな声を上げた。
「たまごサンドだ!」
お弁当の中身は、少し厚い卵焼きが挟まれたサンドイッチが2つ、小さなサラダカップが一つ。
カイが大好きな手作りの人参のドレッシングがかかっている。
さらにカボチャのポタージュと、デザートには大好きなマスカット。
カイはご機嫌に両手を合わせた。
「いただきます」
そして一口目をゆっくりと噛んで、ふにゃりと顔を緩める。
「パンも卵もふわふわ、おいしい」
「それは何よりでございます」
「誉のたまごサンド好き」
「よく召し上がっておられますね」
「うん。卵ふわふわだし、パンもふわふわ」
「ふわふわ尽くしでございますね」
「そう。誉のは、世界一ふわふわ」
カイが夢中で食べすすめるのを見た瀬戸が、小さく微笑みながら湯呑みに茶を注ぐ。
カイはもぐもぐとしながら、ぽつりと言った。
「……誉のごはんって、なんでこんなにおいしいのかな」
「坊ちゃまのためだけに、気持ちを込めて作っていらっしゃるからでしょう」
「けど、爺だって、オレが食べれるように、いろいろ言ってくれてるじゃん」
「それでも、坊ちゃまの体調とお気持ちに合わせ、きめ細かにお味や柔らかさを指定することは、大変難しゅうございます」
「誉がすごいってこと?」
「ええ。卯月さまにかなう方はおられません」
「ふうん」
カイは少し考えながら、サンドイッチをもう一口頬張った。
「……オレ、じいもすごいと思うよ」
「……ありがとうございます」
「だって、じいがいなかったら……オレ、そもそも誉に出会うまで生きれてないし」
瀬戸の手が、一瞬止まった。
カイはそんな瀬戸を見上げながら、続ける。
「オレ、じいのことも、だいすきだよ」
「ありがとうございます」
「でも、じいへの好きと、誉への好きが違うって……最近、やっと気づいたんだ」
瀬戸は驚く様子もなく静かに頷き、目を細めた。
「左様でございますか」
「うん。じいとも一緒にいたいけど、誉と一緒にいたいのとは、また違う気持ちなんだよね」
「それでよろしいのですよ」
そして穏やかにそう言うと、カイの傍らで丁寧に頭を下げた。
「じいは、これからも変わらず坊ちゃまにお仕えしますよ。
じいも、坊ちゃまのことが大好きですから」
「えへへ、ありがと」
嬉しそうに笑って、カイはまたサンドイッチにかぶりついた。瀬戸は、その姿を静かに見守る。
カイの幼い頃から世話をしてきたが、一番苦労したのは、その食事だった。
人は、食べなければ生きられない。
だが、カイは体調によって食べられるものが変わり、匂いや食感ひとつで箸が止まってしまう。
だから瀬戸は、これまで厨房へ細かな指示を出し、どうにか一口でも多く食べられるよう工夫を重ねてきた。それでも力及ばず、長い間カイにとっての食事は、生きるための栄養摂取でしかなかった。
けれど、卯月 誉が現れてから、それが大きく変わった。
食事を食べたいと思えること。
食べたものが、美味しいと笑えること。
次の食事を楽しみに思えること。
それは、瀬戸が何より願ってきたものだった。
「……本日は、おやつも頂いておりますよ」
「ほんと?」
その言葉に、カイがぱっと顔を上げる。
「誉のおやつ、何だろ」
「リハビリのあとのお楽しみにするよう、仰せ使っております」
「えー、気になる」
「坊ちゃまのお好きなものだそうです」
「クッキーかなあ。あ、フルーツのゼリーかなあ」
カイは楽しそうに考えながら、残っていたデザートを頬張った。
「じいは、知ってるんだろ?」
「もちろん、存じております」
「教えて」
「いけません」
「ケチー」
「リハビリのご褒美としてお出しすると、卯月さまとのお約束でございますので」
「むう……」
カイはしばらく不満そうにしていたが、やがて諦めたようにサンドイッチの最後の一口を口へ運んだ。
「じゃあ、リハビリがんばる」
「よろしいことですね」
それからすぐにカイは昼食全てを食べ終えて、満足げに手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「たくさん召し上がりましたね」
「全部食べられた」
「ええ。素晴らしいです」
両手を合わせたカイは、そのまま瀬戸に向かって片手を差し出した。
「じい、タブレットちょうだい」
「いけません」
「え、なんで。
リハビリまで、あと三十分はあるじゃん」
「ええ。
ですから、きちんと食休みをなさってください」
「ケチ—」
「ケチで結構でございます」
「むう……」
カイがいくら膨れて見せても、瀬戸はまったく取り合おうとしない。そこで仕方なくベッドへ移動して、ごろんと横になった。
そして、枕に頬を押しつけて、一度、二度と、もぞもぞ寝返りを打つと声を上げる。
「じいー」
「はい」
「背中、なでなでして〜」
「かしこまりました」
瀬戸が椅子を寄せ、ゆっくりとカイの背を撫で始める。少しすると、くぁ、と大きな欠伸が出た。
「……寝ないよ。眠くないし」
「はい」
「ちょっと休むだけだから」
「承知しております」
だが、数回撫でられたところで、カイの瞼がゆっくり落ちていく。
「……ほまのおやつ、なにかなあ……」
そして、そう小さく呟いたきり、静かになった。
その呼吸が、すうっと深くなる。
瀬戸は柔らかく微笑むだけで何も言わず、そのままトントンと優しくその背を撫で続けた。
——二十分後。
「坊ちゃま。そろそろお時間でございますよ」
「……んー……」
肩を軽く揺すられて、カイは眉を寄せた。
「リハビリのお時間です」
「……んん、ねむい……今日は休む……」
「では、おやつは要りませんね」
「えっ、なんで。いるけど」
「しかし、おやつはリハビリのご褒美ですので」
「……」
カイは、目を閉じてしばし沈黙して考える。
「……いく……」
そしてぷくっと膨れて答えるので、瀬戸は小さく笑ってしまった。
「では、起きましょうね」
「んー……」
瀬戸に引き揚げてもらってどうにか上体を起こしたカイは、しばらくぼんやりしたまま瀬戸に髪を整えてもらうと、大きなあくびを一つして、ようやくベッドから足を下ろした。
「……リハビリ終わったら、すぐおやつ?」
「ええ。きちんと終えられましたら」
「……はあ。じゃあ、がんばるかあ」
そしてカイはゆっくり立ち上がると、うさちゃんを小脇に抱え、しっかりとした足取りで病室を出て行った。
リハビリ室に向かう途中、エレベーターの前で一度立ち止まり、壁際に寄って小さく息をつく。
二週間とはいえ、ほぼ横になっていたせいで、思った以上に体力が衰えていることを自覚せざるをえない。
「……よし。がんばるぞ」
息が整うと、カイはそう小さく呟いて再び歩き出した。
リハビリ室の扉を開けると、中にいた赤髪の青年が、すぐに顔を上げた。
「あ、旦那、うさちゃん。いらっしゃい。
ご指名ありがとうございまーす」
「……アース……」
カイは呆れたようにため息をついた。
「ホスト癖出てるし。
あと、その旦那ってのやめろ」
「じゃあ、旦那も源氏名じゃなくて、『大地』ってちゃんと呼んでもらえる?」
「……」
「……お互いさまだね」
しばし見つめ合ったあと、大地――アースはにこっと笑った。
「今日もよろしく、旦那」
「チッ」
カイは小さく舌打ちをしながら、部屋の中に入る。
アースはそんなカイの腕の中を見てから、近くの椅子をぽんぽんと叩いた。
「うさちゃんは、ここで見学させといてね」
「……いい。持ってる」
「それじゃ、今日のメニューできないんだよねえ」
「えっ。今日、そんなキツめなの?」
「うん。今日は柔軟、がっつりいくよ〜」
「……オレ、ちょっと調子が……」
くるりと踵を返しかけたカイに、アースが笑いながら追い打ちをかけた。
「誉さんのおやつ、いらないの?」
すると、カイがものすごい勢いで振り返る。
「なんでお前が知ってるんだよ」
「さっき誉さんから、お裾分けいただいたよ」
「なんでだよ!」
「旦那に優しくリハビリさせるようにって。
賄賂だって」
「誉に会ったの?!」
「会ったよ。あの人また鍛えたねえ。
旦那の周辺警備が捗っちゃうねえ」
「なんだよそれ」
「愛されてるねってことだよ」
「……それはそうかも」
「おや、否定しなくなったんだ!成長したね!」
顔を赤らめるカイに対し、アースは声を上げて笑う。
「いやあ、誉先生のおやつ。美味しかったなあ」
「何もらったの?」
「それは内緒。
お楽しみは、あとに取っといたほうがいいって」
「瀬戸も同じこと言ってた……」
「みんな、旦那の扱い方をよーく分かってるからね」
カイはぶつぶつ言いながらもとうとう諦めて、うさちゃんをアースへ差し出した。
「……ちゃんと見えるとこに置いて」
「はいはい」
アースは丁寧にうさちゃんを椅子へ座らせ、カイの方へ向ける。
「うさちゃん、ちゃんと旦那を見張っといてね〜」
「……うさちゃんは見張りなんかしない。
見守るだけ」
「設定が細かいね〜」
「設定言うな」
「はいはい」
満足そうに頷いたカイへ、アースはマットを指した。
「じゃ、まず座って。
賄賂をもらったからには、きっちりやらせていただきます」
「……いや、優しくして」
「もう十分優しいでしょ」
「どこが!?」
「はい、文句言ってないで脚伸ばして」
「うう……」
カイは渋々マットへ座って両脚を前へ伸ばすと、アースがその正面へしゃがみ込み、軽く膝や足首の動きを確認していく。
「うわ、やっぱり身体、ガチガチだねえ。
あ、そういえば午前、小児科だったんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、疲れてるんだ」
「ちょっと。……いや、結構」
「じゃあ今日は、その分も見ながらやろうね」
「柔軟がっつりって言ったじゃん」
「がっつりやるけど、無理はさせないよ」
「矛盾してない?」
「無理のない範囲で。
これ、何においても基本だよ」
アースはさらりと答え、カイの足を支えながらゆっくりと可動域を広げていく。
「痛かったら言って」
「……ん」
「我慢禁止ね」
「分かってるよ……」
「信じるよ」
アースは少しだけ笑ってそう言うと、様子を見ながら施術を進めていく。
するとカイは、数秒後にはきちんと眉を寄せ、
「……そこ、ちょっと痛い」
と口にした。
すると、アースは目を細めながらすぐに力を緩め、そっと耳元で囁いた。
「ちゃんと言えたね、いいこ」
「だからさ……まあいいや。
言えって言ったのお前だろ」
「そうだね。でも、きっと前の旦那なら意地張って我慢しただろうから」
「……オレだって成長したんだ」
「そうだね、大成長。えらい、えらい」
「んなっ、生意気だぞ。年下のくせに!」
「はいはい」
アースが笑いながら、もう一度カイの足へ手を添えた。
「じゃあ、反対側もいこうか」
「……まだやるの? もう十分だろ……」
「まだ開始十分だよ」
カイが恨めしそうに睨んだ、その時だった。
「カイ先生、見ーっけ」
向こうからかけられた聞き慣れた声に、カイが顔を上げた。リハビリ室の入口に、アースとほぼ同じ顔立ちの青年が立っていた。
「カイン〜、会いたかったよ」
「ふふ、アース。私も」
カインは部屋へ入ると、椅子にちょこんと座らされたうさちゃんにも軽く手を振った。
「今日のうさちゃんは、ご見学ですか」
「アースに取られた」
「持ってたらリハビリできないでしょう」
「お前もそっち側かよ」
「私は基本、アース側ですから」
カインはさらりと言って、そのままアースのすぐそばまで歩いていく。カイはそんなカインを見て、ふと眉を寄せた。
「そういやさ。
お前、何で自分の兄貴を源氏名で呼んでんの?」
「別にいいじゃないですか。
アースとカインの方が、響きが綺麗でしょ?」
「知らねえよ。キラキラネームどもが」
「俺は大地だから違うけどね」
「だからずるいんですよ。私は海音ですよ?」
カインが少し不満そうに口を尖らせる。
するとアースが苦笑いをしながら、しかし穏やかにカインに言い聞かせる。
「俺は好きだけどなあ。大地と海音。
漢字も『地と海』で、対になってるし」
「……」
途端に、カインの表情が少し緩んだ。
「……でも、アースがいい」
「まあ、カインが気に入ってるのが一番だね」
「……うん」
カインは素直に頷いて、ごく自然にアースとカイの間に割って入った。その様子を見ながら、カイが呆れたように言う。
「……また監視に来たのか」
「念のためです」
「別にオレ、アースに興味ねえぞ」
「魔が差すこともありますし」
「ねえよ。信用ねえな……」
「私は基本アースしか信用してません」
「あはは、愛されてて嬉しいな」
とんだ執着心を向けられているわけだが、当の本人は、困った様子もなく、むしろ嬉しそうに笑う。
そして、慣れた手つきでカインの身体を抱き寄せた。
「カイン……午後もとっても可愛いね。愛してるよ」
「……うん」
「同じ顔だろうが」
「同じ顔でもカインは可愛いんだよ」
「意味わかんねえ」
「俺たちだけがわかってればいいの」
アースは当然のようにそう言うと、カインの頭へ軽く口づけた。
カインも何も言わず、その胸へ背中を預けながら、明らかに嬉しそうに口元を緩めている。
「……相変わらず仲がいいな、お前ら」
「まあ、お腹の中から一緒ですし?」
「それにしたって……」
「まあ仕方ないよね。俺たちはこうだから」
アースがもう一度、ぎゅっと腕に力を込める。
カインも離れる気配はない。
カイはしばらく二人を眺めたあと、深々とため息をついた。
「……勤務中だぞ」
「どうせ、カイ先生も職場で誉先生といちゃついてるんでしょ?」
「んなわけあるか!」
「またまた、ご謙遜を」
カイが即座に否定すると、アースが横から口を挟んだ。
「ああ、カイン。それは本当にそうみたいだよ」
「まあっ」
「どうやらね。
二年ぶりの誉さんに、旦那の人見知りが発動して、結構ギクシャクしてたらしいんだよね」
「ちょっ、ちょっと待て!
お前、どこからそういう情報掴んでくるんだよ!」
「んー……看護師さん?」
「なんで疑問形なんだよ」
「なんか皆さん、いつも色々と話をしていってくれるんだよねえ」
「……この人たらしが」
呆れ果てたようにカイが呟くと、その横でカインがわずかに眉を寄せた。アースはすぐにカインから発せられる不穏な空気に気がついたらしい。
「カイン」
「……なんですか」
「俺は、カインが一番だよ」
「……」
ほんの一瞬、カインは黙った。
それから、さっきまでの棘が嘘のように消えた顔で、アースの胸へもう少し身体を預ける。
「……うん」
「だーかーら! 勤務中だっつってんだろ!」
カイの声に、アースが楽しそうに笑った。
「旦那も誉さんにやってもらえばいいじゃん」
「職場でやるわけないだろ!」
「へえ」
「……なんだよ」
「いや。昔なら『そんなことしない』って言ってたのになあと思って」
「……」
カイがぴたりと黙る。カインも一瞬目を丸くしてから、少し意地悪そうに笑った。
「なるほど。
場所だけの問題で、やることはやるんですね」
「うるせえ!」
真っ赤になったカイを見て、双子は揃って笑った。
カイは居心地悪そうにしながら、カインの方を向く。
「……で、お前、本当にアースの監視だけに来たの?」
「半分はそうです。ちょっとだけ、カイ先生のご知見をお借りしたくて」
カインはアースの腕から抜けると、持っていたタブレットを掲げた。
「オレ、休職中なんだけど」
「だって内科コンサルの総括、感じ悪いんだもの。
いつも混んでるし」
「……はあ、何だよ。見せてみろ」
カインはカイのそばへしゃがむと、画面を見せる。
カルテと、MRIの画像が映されていた。
「これ、頸椎だけで説明つくと思います?」
「……んー」
カイは何気なく画像へ目を落とした。
するとその瞬間、その表情が変わる。
「主訴は?」
「右手の細かい動きがしづらいのと、歩く時に右足が少し引っかかる感じです。
頸椎にも狭いところはあるんですけど……画像のわりに症状が強い気がして」
「右だけ?」
「今のところは」
「顔は? 喋りにくさとか」
「ないです。 右手に少し痺れがあるくらい」
「反射は?」
「脚が少し強いです」
カイは画面を拡大し、何枚か画像を送って確認する。
「……うん。
首に悪いところはあるけど、これだけで右手と右足を全部説明するのはちょっと無理があるな」
「やっぱりそう思います?」
「思う。画像でそれっぽいところを見つけると、全部そこに寄せたくなるけど……。
症状の出方と場所が、チグハグなところがある」
カイは、少し考えてから、画面の一部を指先で示した。
「頭は撮った?」
「まだです」
「じゃあ撮ったほうがいい。
現状、脳側の可能性も否定できない。
あと神経内科にも回して」
「分かりました」
「発症は?」
「二週間くらい前から、少しずつです」
「なら余計に、整形だけで抱えないほうがいいな。首に異常があるのは事実だけど、それだけが原因の全部とは限らない」
「はい」
カインは素直に頷いたあと、少しだけ口元を緩めた。
「……カイ先生、整形来る気ありません?」
「は? なんでだよ、キョーミない」
「興味なくてこれだもんなあ」
横から、アースがくすくす笑う。
「旦那、昔からそうだよねえ」
「別に、知らないわけじゃない。
大学で基礎は一通り習った」
「その基礎の基準がおかしいんだよ」
「そうです。普通の内科医は、整形の画像見てそこまで即答しません」
「……そりゃ聞いた内科医が外れだったな。てか、お前、そもそも見当つけてここに持ってきただろ」
「まあ、そうですけど」
「じゃあ自分で判断しろよ」
「後ろ盾が欲しかったんですよ。強力な、ね」
「だから、オレは休職中だから役に立たないって」
「でも、頭は元気でしょう?」
「……まあ、それはそう」
カインはタブレットを引き寄せながら、少しだけ肩をすくめた。
「カイ先生が戻ってくれたら、こっちは助かりますけどね」
「整形なのに?」
「脳神経科が詰まると、こっちにも回ってきますから。相変わらず人、全然足りてないでしょう?」
「……人?」
その言葉に、カイがわずかに眉を寄せる。
「外から見てても、かなり大変そうですよ」
何かを考えるように、カイの視線が止まった。だが、即座にその目の前でアースがぱん、と手を叩いた。
「はい。業務相談おしまい」
「え」
「休憩もおしまい」
「……今いいところだったんだけど」
「今の旦那のお仕事は、リハビリをして身体を整えること。ほら、続きやるよ」
アースはにっこり笑って、心底嫌そうな顔をしているカイへ手を差し出す。
「……カイン」
助けを求めるように視線を泳がしたカイに、カインがピシャリと言い放った。
「頑張ってください、カイ先生」
「……裏切り者」
「私は基本、アース側ですから」
「一貫してんなー……」
文句を言いながらも、カイは差し出された手を取った。
椅子の上では、うさちゃんが変わらずこちらを見守っている。
「さあさあ、うさちゃんも応援してるから」
「応援するくらいなら代わりにやってほしい……」
「さすがにうさちゃんには無理かなー」
「知ってるし……うさちゃんにこんな苦しい思いをさせるわけにはいかない……」
「あはは、友達思いだね〜」
深くため息をつき、がっくりと肩を落とすカイを前に、双子は揃って楽しそうに笑った。
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