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15話
勢いに任せて、好きだと告白したようなものだった。言葉にした瞬間、ずっと胸の奥にあった気持ちが、はっきり形を持った。
手を引かれて歩く帰り道、奏汰は何度もその瞬間を思い返していた。
誤魔化しようもない。
否定する理由も、もう見つからない。
司が、好きだ。
分かっていた気持ちを、とうとう認めてしまったのだ。
家に着くなり、玄関で抱き寄せられる。靴も脱いでいないのに、そのまま唇が重なった。驚く間もなく、もう一度キスされそうになって、奏汰は慌てて顔を背ける。
「……ちょ、待ってください!」
「なんで拒むんだよ」
「ずるいからです」
「ずるいって、何が」
ぐっと拳を握る。だって、奏汰は司の気持ちをまだ聞いていない。
「何も言わないで、ここまで手を引かれて!家に着いたらいきなり抱きしめられて、キスされて……!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
「え……それは……」
言いよどみながら、視線を逸らす。
「……キスの前に、何か言うこととか……ないですか」
「なに、言うことって」
「だから!」
思わず声が大きくなる。
「好きとか! そういうの、ないのかって言ってるんです!」
司は頭を掻いて、大きく息を吐いた。
「かーっ。お前さ、少女漫画じゃあるまいし」
「……」
「心が通じ合った者同士なら、そんなの、やること一つだろ」
「……うわ、出た」
奏汰は思わず顔をしかめる。
「ほんと、デリカシーない……」
奏汰は、じっと司を睨んだ。
司は一瞬きょとんとしたあと、吹き出す。
「あはは。お前さ、ほんと面白いな」
「笑って誤魔化さないでください。司先生って……恋愛ポンコツなんですね。百戦錬磨かと思ってましたけど、違いました」
「おい……」
「そ、そうじゃないですか。ム、ムードとか、まるでないし」
「ムード? なんだそれ。俺とお前で、今さら必要ねぇだろ」
「ほら、そういうとこです。ほんと、ポンコツ」
壁際に追い込まれたまま、押し問答になる。
「……このまま流す気なら、やめますからね」
少し強気に言う奏汰に、司は少しだけ目を細めた。からかうでも、逃げるでもない、妙に落ち着いた視線。
「まぁ、ポンコツなのは認めるけどな」
そう言って、司は楽しそうに笑う。
「でも、離す気はねぇ」
言い返そうとした瞬間、チュッと短い音を立てて唇が触れる。同時に手首を取られた。力は強くないのに、逆らえない。
「ちょ、司せんせ……!」
「はいはい。続きはこっちだ」
最初から決まっていたみたいに、司は迷いなく奥へ向かう。奏汰は引かれるまま、初めて足を踏み入れた。
司の、ベッドルーム。
思っていたより整っていて、余計なものがない。大人の男の生活の匂いが、静かに残っている。
「……ここ、初めて入ります」
「そりゃそうだろ」
司は肩をすくめながらドアを閉めた。カチリ、と小さな音。外の気配が遠ざかる。
一気に距離が縮まる。
「……なぁ、奏汰」
名前を呼ばれただけで、心臓が跳ねる。
「言葉が欲しいなら、あとでいくらでも言う」
司は、いつになく真剣な目で見下ろしていた。
「でも今は__」
言葉の続きを待つ間もなく、奏汰の声が途切れる。唇が触れる寸前で、司が一度だけ止まった。
「ここから先、超えたら俺はお前を離さない。……戻れなくなるけど、いいか?」
「……それ、もう答え出てる質問じゃないですか」
小さくそう言うと、司は笑った。
「だよな」
次の瞬間、視界がゆっくりと揺れる。ベッドの柔らかさに背中が沈み、司の影が覆いかぶさった。
それ以上のことは、言葉にしなくても分かる。夜は、まだ長いようだ。
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