22 / 25
先生、離す気はないそうです。1話※
大人の塾は、勢いが止まらなかった。
当初はオンライン限定の予定だったが、想定を超える反響を受け、通学型の開校まで決まった。
派手な広告は打たない。
そう言っていた司だったが、ひょんなことからテレビに取り上げられ、そこから一気に問い合わせと入会希望者が増えた。
巷ではいつの間にか、「イケメン塾長」
「やり手経営者」なんて呼ばれるようになり、メディア出演の依頼も倍増している。
そのせいで、司の帰宅は連日深夜だった。
平日はほとんどすれ違いで、仕事の時間帯に顔を合わせないまま、一日が終わってしまうことも多い。
夜になれば、同じ部屋に戻ってくる。
同じベッドで眠るのに、日中の司を知らないまま、言葉を交わす時間もないまま、奏汰は目を閉じる。そんな日も多くなっていた。
それでも、休みだけは何とか一緒に取れている。ほんのわずかなその時間が、奏汰にとっての救いだった。
明日から二連休。
その前日の夜、日付が変わるころ。
玄関の鍵が開く音がして、奏汰は思わずパタパタと駆け出した。
ドアに立っていたのは、見るからに疲れ切った司だった。スーツはくたびれ、ネクタイは緩んだまま。見るからに、ボロボロだ。
「司さん…」
最近は、そう呼んでいる。
司先生、と呼びながらキスをしたときに、
「なんか、悪いことしてるみたいだな……」
そう言って、困ったように眉を下げる司の顔を見るのが、妙に胸に残ってしまったからだ。
「おかえりなさい」
そう声をかけるより早く、腕を引かれた。
玄関で靴を脱ぐ前、体ごと抱き寄せられて、そのまま背中が壁に当たる。
「……ただいま」
低い声が耳元に落ちて、息がかかる。次の瞬間、短く、でも確かめるみたいなキス。
疲れているはずなのに、力は抜けていない。むしろ、溜め込んでいたものをほどくみたいに、ぎゅっと抱きしめられる。
「ちょ……司さん、まだ玄関……」
「無理。今日、限界」
それだけ言って、額を押しつけてくる。
司の体温が、じんわり伝わってきて、胸の奥がゆるむ。
「……か、せてくれ…」
「ん?なに? どうしました?」
司は奏汰をぎゅっと抱きしめたまま、何かを小さく呟いている。吐息に混じった声は掠れていて、よく聞き取れない。
疲れきった身体を預けるみたいに、腕の力だけがやけに強かった。次の瞬間、肩を掴まれ、ぐっと正面に引き寄せられる。逃げ場のない距離で、司の強い視線が絡んだ。
「抱かせてくれ……奏汰」
「は?」
◇
さっきまで一人で静かだった家の中が、いつの間にか二人分の吐息でいっぱいになっている。手を引かれるままベッドルームへ連れて行かれ、気づけばベッドに押し倒されていた。
「や、ああん、もう…だめ…んっんん、」
「ああ…止まんねぇ、悪い、」
気づけば四つん這いにさせられ、後ろからガツガツと腰を送り込まれている。
初めてした日から……
セックスは、頻繁に続いている。
だからなのか、奏汰の気持ちいい場所も司には知られているし、二人で射精するタイミングもわかってきている。
司が腰を送り込むたびに、ズッチ…ッ ズッチ…ッと鈍い音が響く。後ろからされる時、司は特に激しく腰を振り上げる。
「つ、かさ…さん、もう…だめ…」
「もうちょっと付き合えよ…ああ、やべっ、お前の中……気持ちい…」
そう言うと、奏汰の腰を抱え直し、大きく腰を回した。その後、足が浮くくらい持ち上げられ、激しく下から上へ腰を送り込まれる。
バチッ、バチュッと肌と肌がぶつかり合う音が聞こえる。その音と、司の勢いに奏汰は興奮が抑えられない。
激しく求められるといつも興奮してしまう。「もっと…もっと…」と司にしがみつき甘えた声を上げることもある。
それに、興奮して勃起している司のペニスは大きくて硬い。それで中を擦られるとたまらなく気持ちがいいと、教えられた。
「尻、上げろよ…」
「や、でき…ない…っ」
司の激しい抜き差しで身体が潰れそうになるのに、腰を掴み、もっと尻を出せと言われる。
上半身をシーツに擦らせ、お尻だけ高く突き出すと、司は指を食い込ませながら容赦なく腰を送り込む。一段と司のペニスが硬くなった。
「つ…かさ、さん…も……イク…いき…そう」
「ああ、俺も……出すぞ…」
尻を強く掴まれ、ドンと力強く奥深くまで腰を捩じ込まれた。奏汰の中で司のペニスがどくどくと波を打っている。と、同時に奏汰もビュッとシーツに精子を吐き出した。
「…あ……ん…っ」
二、三度腰を大きく振り、再度ペニスを根元まで押し込まれる。お尻に司のアンダーヘアを感じ、ビクンと反応してしまった。
グリグリと腰を振り終えた司は、はぁ、はぁと、荒い息と共にズルッとペニスを引き抜く。引き抜く勢いが力強くて、また刺激されそうだった。
激しく求められて興奮したけど、いつもよりちょっと余裕がないセックスだ。
「あー…やっべぇ…性欲がとまらない」
「……帰ってきてすぐ…どうしたんですか」
ベッドにごろんと転がり、奏汰は息を整えながら、司を下から見上げた。
帰ってきて早々、玄関でいきなり切実な顔をして「抱きたい!抱かせてくれ!」と懇願された。
「今、触れられたら童貞みたいに爆発する自信がある。っていうか、もう童貞に戻ってるかもしれない。奏汰、頼むから抱かせてくれ!」
あまりにも真剣で、あまりにも必死で、何をそんな切羽詰まった顔で言っているんだ、この人はと呆れた。
奏汰は小さく息を吐く。
「…だから、ほんとムードないってば……」
そう言いながらも、拒めない自分がいる。
結局、好きな人には弱いのだ。
「うあああーー!!」
「な、なに? 今度は、なにっ!」
ベッドの上で、全裸の司が突然叫んだ。その声に、奏汰は思わず肩を跳ねさせる。
「ゴムが…ない……ゴムがないっ!」
コンドームの箱をガサガサとひっくり返し、枕の下、ベッド脇、棚の上まで必死に探している。
「あー……今のが最後の一個だったかも」
言いながら、奏汰はようやく思い出した。
そういえば、最近補充してなかった気がする。
「マジ!? ないの!? うわあああっ!
ローションはあるのにっ!!」
「ありますよね。しかも……バカみたいに箱買いしてますもんね」
「バカって言うな!!」
司は勢いよく反論しながら、ローションのボトルを振り上げる。
「愛だろ、愛!!これがなかったら、いろいろやべぇだろ!」
「いや、どこがどう、やべぇのか分かりませんけど……」
奏汰が冷静にツッコむ横で、司は本気で悔しそうな顔をしていた。
司は、これでもかというくらい真剣な顔で、自分の股間を指さした。
「ほら、見ろよ、俺っ!やる気満々なのに……完全に戦闘態勢だぜ?」
誇らしげなのか悲壮なのか分からない顔で言われて、指さす股間を見る。
一度、達っているが、司のペニスはまだ反り返っていた。ずっしりと重く、硬そうなペニスは勃起し、上を向いている。
奏汰は思わず目を逸らす。
「……見せなくていいです!」
「だーーーっ!おさまんねぇ!もう嫌だ、俺!エッチ大好きだから、こういう時ほんと大変なんだって!」
ベッドの上を転がりながら、髪をかきむしる司。さっきまで雄全開で、色気たっぷりだったくせに、今は完全に駄々っ子だ。
「司さん……落ち着いてください」
「無理っ!ローションはあるのにゴムがないって、どういう拷問だよ!」
そう言いながら、ローションのボトルを恨めしそうに掲げる。
「愛はあるのに装備が足りないんだぞ!?
これはもう、RPGで言うところの素手だ!」
「例えが雑すぎます!」
司は勢いよくベッドから起き上がった。
「コンビニ行ってくる。ちょっと待ってて」
その瞬間、奏汰は反射的に、司の腕をぎゅっと掴んだ。
「待って!」
「……ん?」
勢いを止められ、司が振り返る。
「あの……司さん……その……」
心臓がうるさい。自分から何を言おうとしているのか、分かっているのに止められない。
「……だから……このままする?コンドーム無しで…いいから」
司の動きが、ぴたりと止まった。
「えっ……?」
「ほ、ほら……ローションは、あるし……」
語尾がどんどん小さくなる。顔が熱い。耳まで熱い。自分で言い出して恥ずかしい。
数秒の沈黙があり、次の瞬間。
「……奏汰」
司は、ものすごく真剣な顔で言った。
「お前、自覚してないだろ」
「な、なにがですか……」
「そういうこと言うのが、一番ヤバいってこと」
そう言って、司は深く息を吸い、頭を抱えた。
「い、嫌…?」
「嫌じゃないっ!俺の理性が、完全に負けるやつ!マジか?マジで言ってるのか?」
必死すぎて、逆に可笑しい。
奏汰は思わず吹き出しそうになりながら、司の腕をぎゅっと掴んだ。
「……司さんが、嫌じゃないなら…」
そう小さくそう言うと、司は、奏汰の額に、軽くおでこをぶつける。
「……抱き潰しても怒るなよ?今日の俺、ほんとヤバいからな?止まんねぇし。しかも、生でやったら…うぉぉぉああっ!」
ぐっと拳を握りしめて、勢いよく言い切り、耐えきれないみたいに、両手を振り上げる。
「ダメだこれ!俺、想像しただけで限界!」
必死すぎるその姿に、奏汰はとうとう吹き出した。
「……ちょ、ちょっと落ち着いてください。
なんでそんな全力なんですか」
「好きなやつが目の前にいて、しかもそんなこと言われたら、全力にもなるだろ!」
言い切りが妙に真剣で、奏汰は顔が熱くなるのを感じた。
「もういいから……こっちきてください…」
でも、その不器用な必死さが、どうしようもなく愛おしくて。奏汰は、司の腕を引き寄せた。
ともだちにシェアしよう!

