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第3話
インターハイの地方予選が近づき、部内の空気が徐々に熱を帯びていた。
放課後、太陽は傾き始めているのにコートにはまだ僅かに熱気が残っている。
部員たちは制服からジャージへ素早く着替え、それぞれのラケットのガットを軽く弾いて感触を確かめている。
「今日はラストまで通すぞ!」
亮介の声が、部全体を引き締めた。
二年、三年が中心の選抜メンバーは普段の練習よりさらに張り詰めた表情でコートに散っていく。
ストレッチを終えると、亮介はすぐにフットワークのメニューに取り掛かる。
コートの端から端までシャドースイングを混ぜながら走り抜ける姿はまるで試合の中にいるかのような鋭さだ。
「国島先輩、速っ……」
一年生が思わず漏らした声に、横で見ていた三年の先輩が笑う。
「当たり前だろ。インターハイ狙ってんだから。」
亮介の目つきは始終鋭い。
彼自身が緊張していないわけではない。
むしろ、焦りと闘志が混ざったまま体の奥で燃えている状態だ。
反対側のコートでは、佳孝が選抜ダブルスの相方と繰り返しパターン練習を行っていた。
コーチが「はい、次ポーチ」「はい、ストレートボレー」と支持を飛ばすたび、佳孝は表情をほとんど変えないまま、正確にボールを運ぶ。
ガットを弾く音が一定のリズムを刻み、無駄なスイングの音が一切しない。「静」のプレーヤーらしく、呼吸すら乱さずに練習が進んでいく。
コーチが横目で彼らを見ながらつぶやく。
「児山の安定感、やっぱ助かるな……」
練習の終盤、選抜メンバー全員が集められ、実戦形式の総当たり戦が始まった。
亮介は仲間とのラリーでも手を抜かない。球速は試合さながらで、向かい合う誰もが奥歯を嚙みしめるほどの緊張感が走る。
ラリーを終えたあと、肩で大きく息をしている三年生に亮介が声をかけた。
「あとちょいで予選や。ここで緩めたら絶対後悔する。」
その言葉に応えるように、部員たちの表情が改めて締まり、コートからは力強い足音が響き始めた。
練習の最後、全員で円になり掛け声を入れる。
声が夕暮れの空につきぬけていき、夏の入り口の空気がわずかに震えた。
「インハイ予選、絶対勝つぞ!」
その声は、強い決意と少しの不安。
そして何より(仲間全員で戦う)という熱を内に秘めていた。
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